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ABINIT-MP Openシリーズ (Ver.2 Rev.8)

※2021年9月版(Ver.2 Rev.4)に関するページはこちらです

※2020年6月版(Ver.1 Rev.22)に対応するBSV(BioStation Viewer)のWindows用インストーラはこちらからダウンロードできます

はじめに

ABINIT-MP [1,2]のOpenシリーズはVer. 2系に移行し、初回のリリースが2021年9月のRev. 4 [3]、今回が2回目のRev. 8 [4]となります。Rev. 4の頁でも記していますが、Ver. 2系では機能の拡充と共に、常用されるFMO-MP2ジョブの高速化、さらに数万フラグメントの扱いを目指した整備が行われています。高速化については、計算機科学の高性能計算(HPC)の専門家グループとのコラボレーションの下、「富岳」に代表される富士通A64FX系のスパコンを意識しての改良作業となっています。2020年6月にリリースしたVer. 1系の最終版Rev. 22に比べるとFMO-MP2計算は、前回のVer. 2 Rev. 4では1.2~1.4倍の加速、今回のVer. 2 Rev. 8では1.5~2倍の加速となっています。大規模系への対応に関しては、タンパク質の水和モデルの扱いにおいて遠方の水分子をクラスターとしてまとめ、フラグメント総数を実効的に削減する前処理スクリプトを開発しました。これにより、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の扱いが可能となりました。

機能面での強化では、PIEDAで局所応答分散(LRD)法によって分散力の寄与を電子相関の寄与と分離して評価できるようになった他、興味領域での励起エネルギーとイオン化エネルギーの算定が可能となりました。また、分子凝集系を想定した励起状態でのフラグメント間での結合パラメータを評価する機能も追加されました。

Ver. 2系ではCPF(Check Point File)の書き出しが無効化されています。CPFの読み込みによるBSV(BioStation Viewer)を使った可視化的な解析については、今後も当面並行して提供するVer. 1 Rev. 22を使っていただくことになります。「富岳」を頂点とする国内HPCI拠点では、Ver. 2系の更新版と共にVer. 1 Rev. 22もライブラリとして利用できるようにしています。

Ver. 2 Rev. 8では、2つのネームリスト(&EXPROPと&COUPLING)が追加されており、Ver. 1 Rev. 22とVer. 2 Rev. 4のajfファイルに追加しないと読み込みに失敗します。そのため、mkinp_ver2rev8-hd-2023august.py スクリプトを使ってVer. 2 Rev. 8用に転換する必要があります。


[1] “Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

[2] “The ABINIT-MP Program”, Y. Mochizuki, T. Nakano, K. Sakakura, Y. Okiyama, H. Watanabe, K. Kato, Y. Akinaga, S. Sato, J. Yamamoto, K. Yamashita, T. Murase, T. Ishikawa, Y. Komeiji, Y. Kato, N. Watanabe, T. Tsukamoto, H. Mori, K. Okuwaki, S. Tanaka, A. Kato, C. Watanabe, K. Fukuzawa (pp.53-67) in “Recent Advances of the Fragment Molecular Orbital Method – Enhanced Performance and Applicability”, ed. by Y. Mochizuki, S. Tanaka, K. Fukuzawa, (2021, Springer, Singapore).

[3] “FMOプログラムABINIT-MPの整備状況2021”, 望月祐志, 中野達也, 佐藤伸哉, 坂倉耕太, 渡邊啓正, 奥脇弘次, 大島聡史, 片桐孝洋, J. Comp. Chem. Jpn., 20 (2021) 132-136.

[4] “FMOプログラムABINIT-MPの整備状況2022”, 望月祐志, 中野達也, 坂倉耕太, 渡邊啓正, 佐藤伸哉, 奥脇弘次, 秋澤和輝, 土居英男, 大島聡史,片桐孝洋, J. Comp. Chem. Jpn., 21 (2022) 106-110.

Open Ver. 2 Rev. 8の高速化と大規模系対応

A64FX向けの高速化に関しては、「学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点」(JHPCN)[5]の課題を通じてHPCの専門家とのコラボレーションの下で進めています。Rev. 4に対してRev. 8で追加的に実施した高速化作業は、レジスタスピルを減らすために2電子積分の生成ルーチン群にループ分割を行ったこと、Fock行列構築の最深部処理からif分岐を排除したことです。さらに、モノマーの自己無撞着場(SCC)の段階で2電子積分をバッファリングして各モノマーでのIn-core SCF計算を可としました。積分のバッファリングは、4つの軌道の角運動量の総和で指定できますが、実際の利用では対象系、基底関数の設定、ならびに使用する計算機のメモリの上限値に依存します。図1に、エイズウイルスのプロテアーゼにリガンド(ロピナビル)が結合した系のFMO-MP2/cc-pVDZジョブを名古屋大学の「不老」 Type I上でRev. 4とRev. 8で実行したタイミングを示します(MP2の積分変換は全段をDGEMMで処理)。Rev. 8での積分のバッファリングは、軌道角運動量の和で4までの積分が対象となっています。Rev. 4との比較では、モノマーSCFの加速が効いていることがわかりますが、ダイマーSCFも速くなっているのは積分ルーチンでのループ分割とFock行列計算の改良を反映しています。

大規模系への対応についてですが、ターゲットとしては古典分子動力学(MD)シミュレーションによって生成された数千残基のタンパク質の水和モデルが主になると想定されます。そこで今回は発想を変え、ABINIT-MP本体の改造ではなく、フラグメント分割の前処理を行って実効的なフラグメント総数を減らすことを考えました。つまり、タンパク質に隣接する水分子は水和に伴う電荷移動や分極を考慮するために個別に扱うのに対し、遠方の水はクラスターとしてまとめるという形です。クラスタリングによってO原子が4,5個となるため、残基部分との粒度差が小さくなって並列処理のバランスの改善も期待できます。実際の処理はPythonスクリプトを使って行っていますが、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(3.3千残基)のような糖タンパク質の糖鎖部分も自動でフラグメント化できるようになっています。図2は、スパイクタンパク質(PDB-ID=6XLU)の水和モデルで、MD由来の構造サンプルのフラグメント総数は1.8万ですが、この前処理によって1万にまで低減できました。「富岳」の8ラック利用では、FMO-MP2/6-31G*ジョブが2.1時間で完走します。2020年度の段階では、Ver. 1 Rev. 22プログラムの制約からスパイクタンパク質の計算[6]は水和は無し(また糖も無し)での条件でやらざるを得ず、忸怩たる思いがありました。しかし、Ver. 2 Rev. 8ではフラグメント総数が2万程度となる数千残基のタンパク質の水和モデルのFMO-MP2計算は(「富岳」であれば)ルーチン的に実行可能になりました。なお、この前処理スクリプトのご利用については当面は応相談とさせていただきます。


[5] 「学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)」<https://jhpcn-kyoten.itc.u-tokyo.ac.jp/ja/>, 課題番号: jh210036-NAH, jh220010, jh230001.

[6] “Interaction analyses on SARS-CoV-2 spike protein based on fragment molecular orbital calculations”, K. Akisawa, R. Hatada, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, K. Fukuzawa, Y. Komeiji, S. Tanaka, RSC Adv. 11 (2021) 3272-3279.

Open Ver. 2 Rev. 8の機能強化

機能強化では、相互作用エネルギーの成分分解であるPIEDA [7,8]でMP2などの電子相関計算でのエネルギー低下を“DI”(Dispersion Interaction:分散相互作用)としている点に対する修正案として、LRD(Local Response Dispersion)[9]によって分散力系の安定化寄与を別に算定し、過剰なイオン性の低減などの相関補正の寄与と分離して評価可能としました。文献[10]では、LRD計算を別途行っていましたが、今回の改良で単一ジョブで計算可になりました[11]。構造活性相関(QSAR)や機械学習では、各寄与を分けて記述子とすることで予測精度が改善される可能性があります。また、環境静電ポテンシャル由来のRESP電荷を使った“ES項(Electrostatic Interaction:静電相互作用)”に対する参考値の算定機能オプションも入りました[11]。

機能追加では、多層FMO [12]の文脈で1電子励起CI(CIS)[13]とMP2的なエネルギー補正(CIS(D):緩和エネルギーと差分相関エネルギーを評価)[14]が利用可能になりました[4]。&EXPROPネームリストで指定しますが、元々は立教大学の古いローカル版にあったモジュールを移植した機能になります。これにより、例えばTrp-Cageの興味領域であるTrp部分のみの励起エネルギーの算定ができます。CIS(D)では、MP2振幅を部分的に再規格化し、さらに相関導入による差分緩和エネルギーを考慮するオプション[15]、ならびに緩和エネルギーに準粒子・2次グリーン関数[16]の自己エネルギーシフトを入れるオプション[17]もあります。図3は、Trp-CageのTrpの励起エネルギーを文献[15]の機能で計算した例になります(基底関数はcc-pVDZ)。なお、CIS(D)の拡張でMP2振幅への自己エネルギーシフト[18]は、Rev. 8では未だサポートできていません。

2次グリーン関数の機能は単独でも使え、標的分子系の荷電状態には注意が要りますが、興味領域のイオン化エネルギーを計算できます(&EXPROPで指定)[4]。2次の自己エネルギーは、過大評価気味のクープマンスの値に比べると逆に過小評価に転じる傾向がありますが、pGW2スケーリング[19]を行うと妥当な値となります。なお、手動でのスケーリングパラメータも設定可能です。図4は、Trp-CageのTrpのイオン化エネルギーの算定値のリストです。

機能追加の最後は、分子凝集体でのフラグメント・ユニット間の励起状態のカップリングパラメータ[20,21]の算定です。この機能は、量子科学技術研究開発機構(QST)の藤田貴敏氏がローカル版のABINIT-MPに対して実装されていたモジュールの移植になり、&COUPLINGネームリストで設定します。光応答性分子の結晶状態での解析などに有用と思われます。


[7] “Pair Interaction Energy Decomposition Analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222-237.

[8] “相互作用エネルギー成分分割解析機能PIEDAの実装とタンパク質-リガンド間の相互作用解析”, 塚本貴志, 加藤幸一郎, 加藤昭史, 中野達也, 望月祐志, 福澤薫, J. Comp. Chem. Jpn., 14 (2015) 1-9.

[9] “Density functional method including weak interactions: Dispersion coefficients based on the local response approximation”, T. Sato, H. Nakai, J. Chem. Phys. 131 (2009) 224104-1-12.

[10] “Fragment Molecular Orbital Based Interaction Analyses on Complexes Between SARS-CoV-2 RBD Variants and ACE2”, K. Akisawa, R. Hatada, K. Okuwaki, S. Kitahara, Y. Tachino, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, S. Tanaka, Jpn. J. Appl. Phys. 60 (2021) 090901-1-5.

[11] “Enhancement of energy decomposition analysis in fragment molecular orbital calculations”, S. Matsuoka, K. Sakakura, Y. Akinaga, K. Akisawa, K. Okuwaki, H. Doi, Y. Mochizuki, to be submitted.

[12] “Multilayer Formulation of the Fragment Molecular Orbital Method (FMO)”, D. G. Fedorov, T. Ishida, K. Kitaura, J. Phys. Chem. A, 109 (2005) 2638-2646.

[13] “Configuration interaction singles method with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, S. Koikegami, S. Amari, K. Segawa, K. Kitaura, T. Nakano, Chem. Phys. Lett. 406 (2005) 283-288.

[14] “Parallelized integral-direct CIS(D) calculations with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, K. Yamashita, T. Ishikawa, T. Nakano, S. Amari, K. Segawa, T. Murase, H. Tokiwa, M. Sakurai, Theor. Chem. Acc. 117 (2007) 541-553.

[15] “Modification for spin-adapted version of configuration interaction singles with perturbative doubles”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, Chem. Phys. Lett., 443 (2007) 389-397.

[16] “Propagators in Quantum Chemistry, Second Edition”, J. Linderberg, Y. Öhrn, (2004, Wiley, Hoboken NJ).

[17] “A practical use of self-energy shift for the description of orbital relaxation”, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 453 (2008) 109-116.

[18] “Application of Dyson-corrected second-order perturbation theories”, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 472 (2009) 143-148.

[19] “The parametrized second-order Green function times screened interaction (pGW2) approximation for calculation of outer valence ionization potentials”, C.-H. Hu, D. P. Chong, M. E. Casida, J. Elec. Spec. Rel. Phenom., 85 (1997) 39-46.

[20] “Molecular orbital calculation of biomolecules with fragment molecular orbitals”, S. Tsuneyuki, T. Kobori, K. Akagi, K. Sodeyama, K. Terakura, H. Fukuyama, Chem. Phys. Lett. 476 (2009) 104-108.

[21] “Charge-Transfer Matrix Elements by FMO-LCMO Approach: Hole Transfer in DNA with Parameter Tuned Range-Separated DFT”, H. Kitoh-Nishioka, K. Ando, Chem. Phys. Lett. 621 (2015) 96-101.

Open Ver. 2 Rev. 8 (2023年8月版)の開発者

Ver. 2 Rev. 8のABINIT-MP本体の整備・開発に関しては、中野達也氏(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)、坂倉耕太氏(計算科学振興財団)、望月祐志(立教大学 理学部:取り纏め役)の3名が主に関わりました。また、土居英男氏(立教大学 理学部)と奥脇弘次氏(JSOL&立教大学 理学部)は、入力データの整形ツールや「富岳」でのジョブ実行ツールなどPython系スクリプトを多数開発し、ABINIT-MPの周辺環境の整備に尽力しました。

NEC SX-Aurora TSUBASA向けのベクトル化

立教大学とNECとの共同研究によって、需要の多いFMO-MP2計算のSX-Aurora TSUBASA(SX-AT)向けのベクトル化チューニングが続けられてきました。2022年度までは佐藤伸哉氏(NECソリューションイノベータ)、2023年度からは加藤季広氏(NEC)が坂倉耕太氏(前出)と連携して実作業に当たっています。Ver. 1 Rev. 22では、ベクトル化により、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼとN3リガンドの複合体PDB-ID=6LU7のFMO-MP2/6-31G*計算で改良前に比べて4.6倍の高速化が達成されています[3]。ベクトル化部分はVer. 2 Rev. 4にも移植されていますが、Rev. 8に対してはこれからになりますので、東北大学と大阪大学のSX-ATではVer. 2 Rev. 4での利用となります。なお、ベクトル実行ではDGEMM処理の加速が期待されるため、テンソル縮約のコストが支配的な3次摂動のFMO-MP3計算についても、チューニングを検討しています。

HPCI拠点での整備

HPCI拠点でのスパコンの更新が続いており、各拠点でサブシステムを複数持ち、CPUも富士通のA64FX、IntelのXeon、NECの SX-AT、AMD のEPYCとあり、さらにNVIDIAのGPUも搭載されることが増えているため、全ての環境に対応するのは次第に難しくなってきています。ただ、計算機能によってはflat MPIでしか並列化されていないものもありますので、できるだけOpenMP/MPIの混成並列のバイナリとMPI並列のバイナリの両方をサブシステムに応じて揃えるようにしたいと思っています。

文献[3]には、2021年度のHPCI拠点でのライブラリ整備状況が示されています。可視化解析のためにVer. 1 Rev. 22は今後も(できるだけ)残しますが、Ver. 2 Rev. 4を今回のVer. 2 Rev. 8と併存させるかどうかは拠点毎の事情・判断に依ります。なお、SX-ATについては2023年夏の時点ではVer. 2 Rev. 4までの対応です(上述)。

Ver. 2 Rev. 8のHPCI拠点のライブラリ整備予定は、「富岳」(R-CCS)、「不老」(名古屋大学)、「Wisteria」(東京大学)を2023年度内に済ませ、その後で他拠点へと進めていきます(スパコン更新の状況に依存)。

Open Ver.2系の今後の開発整備

Rev. 8の次は、2年後にリリースを目指すRev. 12を想定しています。開殻系の扱いは、現在のUHF/UMP2に加え、スピン汚染の問題のないROHF/ROMP2の準備を始めています。機能面での追加に関しては、相対論効果の考慮が必要な重原子の扱いに対し、これまでのMCP(Model Core Potential)[22]だけでなく、石村和也氏(X-ability)のSMASH [23]からECP(Effective Core Potential)モジュールを移植します。これにより、GAUSSIANプログラムで常用されるLANL2DZ [24-26]が使えるようになりますので、例えばシスプラチン結合DNAの扱いでQM/MMモデルとの直接比較などが可能となり、利用者の利便性が向上するはずです。

Rev. 12での高速化については、GPU対応との関係から垂直漸化式関係[27]に基づいて軌道タイプの組み合わせに応じて自動生成された2電子積分ルーチン群の再構成を行う予定です。GPU化については、FMO機能を省いたHF/SCF計算のミニアプリを成瀬彰氏(NVIDIA)がチューニングされ、Xeon単独に比してGPUによって6-8倍の加速が得られた経験があります[28]。このチューニングでは、NVIDIA-GPUのCUDAコアを埋めるために積分ルーチン群が軌道角運動量に応じてまとめられ、性能向上に繋がりました。2023年夏時点で、この方針をベースにABINIT-MP本体の改造をどう進めていくか検討しているところです。

大学のHPCI拠点では、いくつかの異なる構成のサブシステムが設置されることが多くなってきていますので、GPU化とは別にA64FX、SX-ATあるいはXeon系の高速化も引き続き取り組んでいくことになりますが、上記の積分ルーチンの再構成は手動・自動チューニング作業の能率を上げると期待しています。

大規模系対応については、Ver. 2 Rev. 8では見送った作業配列群の整理を再度行う予定です。これにより、水和タンパク質モデルで元のフラグメント数が4万程度の系でも扱えるようにしたいと考えています(水のクラスタリング処理は併用)。


[22] “Fragment molecular orbital calculations on large scale systems containing heavy metal atom”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, T. Nakano, S. Amari, H. Mori, H. Honda, T. Fujita, H. Tokiwa, S. Tanaka, Y. Komeiji, K. Fukuzawa, K. Tanaka, E. Miyoshi, Chem. Phys. Lett., 427 (2006) 159-165.

[23] https://sourceforge.net/projects/smash-qc/

[24] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for the transition metal atoms Sc to Hg”, P. J. Hay, W. R. Watt, J. Chem. Phys. 82 (1985) 270-283.

[25] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for main group elements Na to Bi”, W. R. Watt, P. J. Hay, J. Chem. Phys. 82 (1985) 284-298.

[26] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for K to Au including the outermost core orbitals”, P. J. Hay, W. R. Watt, J. Chem. Phys. 82 (1985) 299-310.

[27] “Efficient recursive computation of molecular integrals over Cartesian Gaussian functions”, S. Obara, A. Saika, J. Chem. Phys., 84 (1986) 3963-3974.

[28] “HF計算に特化したABINIT-MPミニアプリのGPU化の試み”, 望月祐志, 坂倉耕太, 成瀬彰, 古家真之介, 下川辺隆史, 芝隼人, 大島聡史, 星野哲也, 片桐孝洋, 理論化学討論会2023, 2023/5/19 (横浜).

謝辞

ABINIT-MP Open Ver. 2系のA64FX向けの高速化と大規模系への対応は、JHPCN [5]の継続課題{jh210036-NAH, jh220010, jh230001}「FMOプログラムABINIT-MPの高速化と超大規模系 への対応」(代表者:望月祐志)の中で展開されています。この中で、片桐孝洋先生(名古屋大学 情報基盤センター)、大島聡史先生(九州大学 情報基盤研究開発センター)にはHPCの専門的なアドバイスをいただいています[3,4]。2023年度からは、星野哲也先生(名古屋大学 情報基盤センター)と滝沢寛之先生(東北大学 サイバーサイエンスセンター)にもご支援いただいています。対象とするスパコンとしては、2021-2022年度は名古屋大学の「不老」 Type Iを作業拠点としたA64FX向けの対応のみでしたが、2023年度からはNECと立教大学とのこれまでの共同研究をベースに、東北大学の「AOBA-A/S」をプラットフォームとしたSX-AT向けの活動(滝沢先生関係)も公式に行っています。

「富岳」での大規模なテスト計算は、感染症対策関係のHPCI課題{hp210026, hp220025, hp220352, hp230017}(代表者:望月祐志)の中で行っています。また、小規模FMOジョブを大量に実行して粗視化シミュレーションの一種である散逸粒子動力学(DPD)のパラメータを決めるアプローチ[29,30]を「富岳」上で推進する課題{hp210261, hp230016}(代表者:望月祐志)とも連動しています。資金面では、2022年度から立教SFRの支援を受けています。

SX-AT向けのベクトル化による高速化チューニング、ならびに解析機能の向上については長年NEC様からご支援をいただいています。また、複数の企業様からの立教大学への指定寄付を得て、ABINIT-MPプログラムの研究開発と維持ができています。

励起状態でのカップリングの算定機能では、モジュールを提供くださった藤田貴敏氏(前出)、ならびに機能の必要性をご議論いただき、さらに移植にご支援いただいた小沢拓氏と新田浩也氏(共にJSOL)にも感謝したいと思います。

HPCI拠点へのABINIT-MPのライブラリ整備やハンズオンセミナーでは、(一財)高度情報科学技術研究機構(RIST)に継続的にお世話になっています。

最後に、「計算工学ナビ」サイトでのABINIT-MP関係の情報公開で長年ご支援いただいている東京大学生産技術研究所の加藤千幸先生、同革新的シミュレーション研究センターにも謝意を表します。


[29] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B, 122 (2018) 338-347.

[30] “フラグメント分子軌道(FMO)法を用いた散逸粒子動力学シミュレーションのための有効相互作用パラメータ算出の自動化フレームワーク”, 奥脇弘次, 土居英男, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn., 17 (2018) 102-109.

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズのご利用、あるいはプログラム開発にご相談のある方は、取り纏め責任者の立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければ適宜対応させていただきます(-at-を@に変換してください)。

ABINIT-MP Openシリーズ (Ver.2 Rev.4)

※2020年6月版(Ver.1 Rev.22)に関するページはこちらです

※2020年6月版(Ver.1 Rev.22)に対応するBSV(BioStation Viewer)のWindows用インストーラはこちらからダウンロードできます

はじめに

フラグメント分子軌道(FMO)計算のプログラムABINIT-MP [1,2]のOpenシリーズは、2021年度にVer. 2系に移行しました。Ver. 2系では、これまで通りの機能の拡充に加え、常用されるメラープレセット2次摂動(MP2)レベルのジョブの「富岳」(理研)などの富士通A64FX系スーパーコンピュータでの数倍を睨んだ高速化、ならびに将来的には数万フラグメントの系を扱える大規模化対応が進められています。

A64FX向け高速化の第一段階として、SIMD(Single Instruction Multiple Data)化による2電子積分生成ルーチン群の改良が行われました。一方の大規模化対応では、フラグメント数の自乗的な配列を「FMO計算に本質的に必要なもの」のみに絞り込み、1万フラグメントの「壁」を超えました。この配列周りの改造に伴い、Ver. 1系までサポートされていた可視化インターフェースであるBSV(BioStation Viewer)での後解析のためのCPF(Check Point File)の書き出しを止めることになりました(BSV用にだけ保持する配列数が多数あるため)。標準的なスペックのWindows10 PCでは数千フラグメントの系のBSVでの可視化が困難であること、また分子動力学(MD)シミュレーションによって生成された多サンプル構造による統計的な相互作用エネルギー解析が増えてきていること、この2点もCPFのサポートを打ち切った判断の背景にはあります。

BSVを使った可視化的な解析については、今後も併存的に提供するVer. 1 Rev. 22を使っていただくことになりますが、Ver. 2系で入っていく新機能や種々の改良は今後とも反映されないことをお断りしておきます。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

[2] “The ABINIT-MP Program”, Y. Mochizuki, T. Nakano, K. Sakakura, Y. Okiyama, H. Watanabe, K. Kato, Y. Akinaga, S. Sato, J. Yamamoto, K. Yamashita, T. Murase, T. Ishikawa, Y. Komeiji, Y. Kato, N. Watanabe, T. Tsukamoto, H. Mori, K. Okuwaki, S. Tanaka, A. Kato, C. Watanabe, K. Fukuzawa (pp.53-67) in “Recent Advances of the Fragment Molecular Orbital Method – Enhanced Performance and Applicability”, ed. by Y. Mochizuki, S. Tanaka, K. Fukuzawa, (2021, Springer, Singapore).

Open Ver. 2 Rev. 4

Ver. 2系の最初のリリース版がRev. 4(2021年8月)です。機能的には、CPHF(Coupled-Perturbed Hartree-Fock)/LR(Linear Response)による動的分極率の算定[3]、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE: Inter-Fragment Interaction Energy)の機械学習用[4,5]の記述子データのダンプが可能となりました。分極率の評価は、機能性材料の解析や設計などで有用と思わます。図1に、Dodecaneのcc-pVDZ基底での動的分極率の計算例を示します。また、図2のchignolinのFMO-MP2/cc-pVDZの計算例のように記述子データはpython系ツールでの後処理に便利な形で出力されます。

A64FX実行環境での高速化に関しては、2電子積分のSIMD化によってFMO-MP2計算では、Ver. 1 Rev. 2に比べて若干速くなっています(系とノード数にも依存)。図3に、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のクローズ構造PDB-ID=6VXX(3.3千残基)のFMO-MP2/6-31G*計算のVer. 1 Rev. 22とVer. 2 Rev. 4の「富岳」の8ラック、つまり3072ノード(48スレッド×3072プロセス)での時間比較を示します。ジョブ時間の短縮は62.7分→51.9分で、ステップ毎の比較では、モノマーSCC(Self-Consistent-Charge)条件を満たすまでフラグメントのHF(Hartree-Fock)計算が繰り返されるステップが速くなっていることが分かります。その他、細かな改良も施して加速を得ています。

大規模系への対応では、図4に示すインフルエンザウイルスのヘマグルチニンとFab抗体2つの複合体PDB-ID=1KENの水和モデル(MDで構造を生成)、総数で1.1万フラグメント(水とイオンが約9千個)の系のFMO-MP2/6-31G*ジョブが「富岳」の1ラックでは5.3時間で完走します。


[3] “Dynamic polarizability calculation with fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, T. Ishikawa, K. Tanaka, H. Tokiwa, T. Nakano, S. Tanaka, Chem. Phys. Lett. 418 (2006) 418-422.

[4] “フラグメント分子軌道(FMO)計算の結果の自動解析の試み”, 望月祐志, 奥沢明, 計算工学学会誌, 22 (2017) 3539-3542.

[5] “FMOプログラムABINIT-MPの開発状況と機械学習との連携”, 望月祐志, 坂倉耕太, 秋永宜伸, 加藤幸一郎, 渡邊啓正, 沖山佳生, 中野達也, 古明地勇人,奥沢明, 福澤薫, 田中成典, J. Comp. Chem. Jpn., 16 (2017) 119-122.

Open Ver. 2 Rev. 4 (2021年8月版)の開発者

Ver. 2系の整備・開発は、下記のメンバで進められています(2021年8月時点)。

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(計算科学振興財団), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 奥脇弘次(立教大学 理学部)(*取り纏め責任者)

Open Ver. 2 Rev. 4のHPCI拠点への整備

Ver, 2 Rev. 4系は2021年9月から「富岳」、「不老 type I」(名古屋大学)、「Wisteria/Odyssey」(東京大学)のA64FXスーパーコンピュータに順次ライブラリプログラムとして順次登録されていきます。Ver. 1 Rev. 22も併存提供となります。また、実行バイナリには、Zn(II)含有タンパク質の6-31G*基底での計算のようにf型基底関数を要する系に対応する版が通常版と別に用意されます(バイナリのサイズも異なる)[6]。

「SQUIDベクトルノード群」(大阪大学)と「AOBA-A」(東北大学)のNEC SX-Aurora TSUBASAのベクトル型スーパーコンピュータでは、ベクトル化チューニングが施されたVer. 1 Rev. 22が整備されています。このチューニングによって、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼとN3リガンドの複合体PDB-ID=6LU7のFMO-MP2/6-31G*計算では4.6倍の高速化が達成されています。

他に、「ITO Subsystem A」(九州大学)、「TSUBAME」(東京工業大学)、「Grand Chariot」(北海道大学)、「Wisteria/Aquarius」のIntel Xeon系スーパーコンピュータにもVer. 2 Rev. 4とVer. 1 Rev. 22をライブラリプログラムとして2021年内に整備見込みです。

Intel Xeon Phi(Kinghts Landing)を積む「Oakforest-PAICS」(JCAHPC)は2022年3月での退役が近いですが、ハイパースレッディングによって少数ノードで効率よくFMO-MP2計算が実行[7]できますので、Ver. 2 Rev. 4とVer. 1 Rev. 22のライブラリ整備を行います(2021年10月を予定)。


[6] “FMOプログラムABINIT-MPの整備状況2020”, 望月祐志, 坂倉耕太, 渡邊啓正, 奥脇弘次, 加藤幸一郎, 渡辺尚貴, 沖山佳生, 福澤薫, 中野達也, J. Comp. Chem. Jpn., 19 (2020) 142-145.

[7] “FMOプログラムABINIT-MPのOakForest-PACS上での多層並列化と性能評価”, 渡邊啓正, 佐藤伸哉, 坂倉耕太, 齊藤天菜, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn., 17 (2018) 147-149.

Open Ver.2系の今後のリリース

Open Ver. 2系では、Ver. 1系までの生物物理・創薬系での応用重視から一般の化学分野での利用を強く意識した機能強化が図られる予定です。

Ver. 2の次のリリース版となるRev. 8では、IFIEの成分分析(PIEDA)[8,9]にLRD(Local Response Dispersion)機能[10]が入り、単一ジョブでの処理が可能となります。LRDもOpenMP/MPIの混成並列に対応します。通常のPIEDAでは、相関エネルギー補正を“DI”(分散:Dispersionの意)として括っているのですが、実際には分散力系の安定化エネルギーだけではなく、過剰なイオン性の低減などの電子相関の導入によるエネルギー低下も含まれており、個々のフラグメントの組み合わせによって両者の割合は変わります[11]。LRDではHF電子密度の多重極展開によって分散力系の安定化だけを算定しますので、“DI”の内訳を分けて解析できます。2021年8月時点で機能テスト中となっています。

長年の懸案となっている、多層FMO(MFMO)[12]によるCIS(Configuration Interaction Singles)系の励起エネルギーの算定機能[13-16]もRev. 8で「復活」します(2021年度下期に作業予定)。また、スケーリング補正付の2次のグリーン関数によるイオン化ポテンシャルの計算[17]もできるようになります。

Rev. 8での高速化と大規模系への対応は、FMO-MP2/6-31G*ジョブを基準に「可能な限りの向上」を図ることになりそうです。

Rev. 8の次はRev. 12を想定しており、これまでのMCP(Model Core Potential)[18]だけでなく、石村和也氏のSMASH[19]からのECP(Effective Core Potential)モジュールの移植によりLANL2DZ[20-22]の使用を可能とする予定です。ECPの方がカバーしている重元素が多く、GAUSSIANの結果との比較も直截です。


[8] “Pair Interaction Energy Decomposition Analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222-237.

[9] “相互作用エネルギー成分分割解析機能PIEDAの実装とタンパク質-リガンド間の相互作用解析”, 塚本貴志, 加藤幸一郎, 加藤昭史, 中野達也, 望月祐志, 福澤薫, J. Comp. Chem. Jpn., 14 (2015) 1-9.

[10] “Density functional method including weak interactions: Dispersion coefficients based on the local response approximation”, T. Sato, H. Nakai, J. Chem. Phys. 131 (2009) 224104-1-12.

[11] “Fragment Molecular Orbital Based Interaction Analyses on Complexes Between SARS-CoV-2 RBD Variants and ACE2”, K. Akisawa, R. Hatada, K. Okuwaki, S. Kitahara, Y. Tachino, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, S. Tanaka, Jpn. J. Appl. Phys. 60 (2021) 090901-1-5.

[12] “Multilayer Formulation of the Fragment Molecular Orbital Method (FMO)”, D. G. Fedorov, T. Ishida, K. Kitaura, J. Phys. Chem. A, 109 (2005) 2638-2646.

[13] “Configuration interaction singles method with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, S. Koikegami, S. Amari, K. Segawa, K. Kitaura, T. Nakano, Chem. Phys. Lett. 406 (2005) 283-288.

[14] “Parallelized integral-direct CIS(D) calculations with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, K. Yamashita, T. Ishikawa, T. Nakano, S. Amari, K. Segawa, T. Murase, H. Tokiwa, M. Sakurai, Theor. Chem. Acc. 117 (2007) 541-553.

[15] “Modification for spin-adapted version of configuration interaction singles with perturbative doubles”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, Chem. Phys. Lett., 443 (2007) 389-397.

[16] “A practical use of self-energy shift for the description of orbital relaxation”, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 453 (2008) 109-116.

[17] J. Linderberg, Y. Öhrn, “Propagators in Quantum Chemistry, Second Edition”, (2004, Wiley, Hoboken NJ).

[18] “Fragment molecular orbital calculations on large scale systems containing heavy metal atom”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, T. Nakano, S. Amari, H. Mori, H. Honda, T. Fujita, H. Tokiwa, S. Tanaka, Y. Komeiji, K. Fukuzawa, K. Tanaka, E. Miyoshi, Chem. Phys. Lett., 427 (2006) 159-165.

[19] https://sourceforge.net/projects/smash-qc/

[20] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for the transition metal atoms Sc to Hg”, P. J. Hay, W. R. Watt, J. Chem. Phys. 82 (1985) 270-283.

[21] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for main group elements Na to Bi”, W. R. Watt, P. J. Hay, J. Chem. Phys. 82 (1985) 284-298.

[22] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for K to Au including the outermost core orbitals”, P. J. Hay, W. R. Watt, J. Chem. Phys. 82 (1985) 299-310.

謝辞

ABINIT-MP Open Ver. 2系のA64FX向けの高速化と大規模系への対応は、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)の2021年度課題jh210036-NAH「FMOプログラムABINIT-MPの高速化と超大規模系 への対応」(代表者:望月祐志)の中で展開されており、A64FXスーパーコンピュータ「不老」を備える名古屋大学情報基盤センターの片桐孝洋・大島聡史先生の研究室とのコラボレーションで進行しています。また、富士通(株)様のサイエンティフィック・システム研究会(SS研)の「A64FXシステムアプリ性能検討WG」の活動とも連動しており、種々のサポートをいただいています。

「富岳」でのテスト計算は、2021年度のHPCI課題hp210026「新規感染症のための計算科学的解析環境の整備」(代表者:望月祐志)の中で行っています。

NEC SX-Aurora TSUBASA向けのベクトル化チューニング、さらに解析機能向上については日本電気(株)様からご支援をいただいています。また、数社様からの立教大学への寄付金を得て、2020~2021年度のABINIT-MPプログラムの研究開発と維持ができています。

HPCI拠点へのABINIT-MPのライブラリ整備やハンズオンセミナーでお世話になっている(一財)高度情報科学技術研究機構(RIST)に謝意を表します。

最後に、「計算工学ナビ」サイトでのABINIT-MPの情報公開で長年ご支援いただいている東京大学生産技術研究所の加藤千幸先生、同革新的シミュレーション研究センターにも感謝したいと思います。

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズの個別のご利用、あるいはプログラム開発にご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければ対応させていただきます(-at-を@に変換してください)。

ABINIT-MP Openシリーズ (Ver.1 Rev.22)

※2019年3月版(Ver.1 Rev.15)に関するページはこちらです

はじめに

ABINIT-MPは、フラグメント分子軌道(FMO)計算を高速に行えるソフトウェアです[1]。専用GUIのBioStation Viewerとの連携により、入力データの作成~計算結果の解析が容易に行えます。4体フラグメント展開(FMO4)による2次摂動計算も可能です。また、部分構造最適化や分子動力学の機能もあります。FMOエネルギー計算では、小規模のサーバから超並列スパコンまで対応しています(Flat MPIとOpenMP/MPI混成)。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

特徴

ABINIT-MPは使い易いFMOプログラムで、4体フラグメント展開までが可能です。研究室単位のLinux/Intel系サーバに標準搭載されているMPI環境で動作しますし、特別な設定も必要ありません。また、煩雑で注意深さを要するフラグメント分割を伴う入力データの作成は随伴GUIのBioStation Viewer(Windowsで動作)を使うなどすれば容易に作成出来ます。また、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)などの計算結果は膨大となりプリントからの理解はしばしば困難ですが、Viewerを使うと可視的・直観的に対象系の相互作用の様態を把握出来ます。

開発の経緯

ABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする文科省系の「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CRESTの「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学 田中成典教授)と立教大学SFR(担当:望月祐志)などの支援を得て、約20年に渡って開発が進められてきました。Intel Xeon (IA64)系バイナリは、Ver. 7が東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センター[2]で利用可能となっています(2020年3月時点)。

2015年度からは、東京大学工学研究科を代表拠点とする文科省プロジェクト「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)[3]の中で、Openシリーズとして機能強化・高速化とリリースが行われてきました(取り纏め責任者:立教大学 望月祐志)。第一版は、バイナリで公開してきているVer. 7を元にメモリー要求の軽減などの改良を施したもので、2016年12月にまとまったVer. 1 Rev. 5 [4]です。Rev. 5は、「京」など幾つかのHPCI拠点にライブラリとして提供されました。

Ver. 1 Rev. 5をベースとし、成分毎の相互作用エネルギー解析(PIEDA)[5]、局在化軌道による分散力の局所解析(FILM)[6]、電荷移動の軌道対解析(CAFI)[7]のなどの解析系の機能強化を図った版が2018年2月リリースのVer. 1 Rev. 10 [8]です。東京大学・筑波大学のJCAHPC管理のメニーコアCPU機であるOakForest-PACS向けには、利用頻度の高いMP2エネルギー計算でOpenMP/MPI/MPIの3階層の並列化実行も可能となりました。なお、2018年の秋から専用GUI であるBioStation Viewerの更新・整備の管轄者は星薬科大学の福澤薫准教授に移りました。

2019年3月にリリースしたVer. 1 Rev. 15 [8]では、ペプチド結合部分のカルボニル酸素(>C=O)による相互作用で、しばしば問題になってきた「相互作用フラグメントの帰属ズレ問題」[9]に対する解決策の一つとして、部分3体展開下でsp2混成炭素(BDA)でのフラグメント切断が可能となりました。エネルギー微分にも対応しています[13]。もう一つの新規機能は、局所応答分散(LRD)[10]によってMP2に代わって分散力による安定化エネルギーを算定出来るようになったことで(論文投稿を準備中)、計算コストとメモリー要求がMP2に比して低いので大きな系を扱うのに有利です。また、結合クラスター展開(CCSD(T)も可)と多体摂動(MBPT)のモジュール[11]が旧JST-CREST版から移植されました。その他、ポアソンボルツマン(PB)型の水和[12]でキャビティを定義する有効原子半径の汎用性を上げています。

「フラッグシップ2020 重点課題6」の枠組みの中での最終版となったのが、Ver. 1 Rev. 20(2020年3月)です。この版では、PB水和での表面領域モデル(PBSA)[14]とPB条件下でのPIEDAの計算がサポートされました。さらに、FMO多層近似[15]によってタンパク質・リガンド複合体の全体ではなく、重要領域のファーマコフォアのみに3次までの摂動(MP3)計算[16]を行い、経験的スケーリング(MP2.5)によってCCSD(T)に近い相互作用エネルギー[17]を得ることも可能となりました。もう1つ追加の機能向上は、基底関数にf型が使えるようになったことで、Zn(II)を含むタンパク質の計算も6-31G*基底で行えます(エネルギー微分も可能)。

Rev. 20に対し、PIEDA処理を大幅に高速化した版が2020年6月リリースのRev. 22です。この緊急改良は、2020年4月からの「富岳」(旧名はポスト「京」)の早期利用による新型コロナウイルスの対策プロジェクト[18]の中、3.3千残基のスパイクタンパク質の計算を行う際に必要となりましたが、結果としてオーバーヘッドは解消されました。最近の応用計算ではPIEDAが常用されていますので、この更新は大きな価値を持つと考え、Rev. 22を最新リリースの対象としました。

HPCI拠点でのライブラリプログラムとしての登録は、高度情報科学技術研究機構(RIST)のご支援を2018年度の下期から受けており、これまでのVer. 1のRev. 10やRev. 15を整備していただいています。Rev. 22以降もこうしたご支援をいただける見込みです。


[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/

[3] http://postk6.t.u-tokyo.ac.jp/

[4] “FMOプログラムABINIT-MPの開発状況と機械学習との連携”, 望月祐志, 坂倉耕太, 秋永宜伸, 加藤幸一郎, 渡邊啓正, 沖山佳生, 中野達也, 古明地勇人,奥沢明, 福澤薫, 田中成典, J. Comp. Chem. Jpn., 16 (2017) 119.

[5] “Pair Interaction Energy Decomposition Analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222.

[6] “Fragment interaction analysis based on local MP2”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, S. Amari, T. Nakano, H. Tokiwa, S. Tanaka, K. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 118 (2007) 937.

[7] “A configuration analysis for fragment interaction”, Y. Mochizuki, K. Fukuzawa, A. Kato, S. Tanaka, K. Kitaura, T. Nakano, Chem. Phys. Lett. 410 (2005) 247.

[8] “ABINIT-MP Openシリーズの最新の開発状況について”, 望月祐志, 秋永宜伸, 坂倉耕太, 渡邊啓正, 加藤幸一郎, 渡辺尚貴, 奥脇弘次, 中野達也, 福澤薫, J. Comp. Chem. Jpn., 18 (2019) 129.

[9] “Antigen-antibody interactions of influenza virus hemagglutinin revealed by the fragment molecular orbital calculation”, A. Yoshioka, K. Takematsu, I. Kurisaki, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, T. Nakano, E. Nobusawa, K. Nakajima, S. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 130 (2011) 1197.

[10] “Density functional method including weak interactions: Dispersion coefficients based on the local response approximation”, T. Sato, H. Nakai, J. Chem. Phys. 131 (2009) 224104-1.

[11] “Higher-order correlated calculations based on fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Yamashita, T. Nakano, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, N. Taguchi, S. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 130 (2011) 515.

[12] “Fragment Molecular Orbital Calculations with Implicit Solvent Based on the Poisson-Boltzmann Equation: Implementation and DNA Study”, Y. Okiyama, T. Nakano, C. Watanabe, K. Fukuzawa, Y. Mochiuzki, S. Tanaka, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 4457.

[13] “Fragmentation at sp2 carbon in fragment molecular orbital (FMO) method”, Y. Akinaga, K. Kato, T. Nakano, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, J. Comp. Chem., 41 (2020) 1416.

[14] “Fragment Molecular Orbital Calculations with Implicit Solvent Based on the Poisson-Boltzmann Equation: II. Protein and Its Ligand-Binding System Studies”, Y. Okiyama, C. Watanabe, K. Fukuzawa, Y. Mochiuzki, T. Nakano, S. Tanaka, J. Phys. Chem. B, 123 (2019) 957.

[15] “Multilayer Formulation of the Fragment Molecular Orbital Method (FMO)”, D. G. Fedorov, T. Ishida, K. Kitaura, J. Phys. Chem. A, 109 (2005) 2638.

[16] “Large-scale FMO-MP3 calculations on the surface proteins of influenza virus, hemagglutinin (HA) and neuraminidase (NA)”, Y. Mochizuki, K. Yamashita, K. Fukuzawa, K. Takematsu, H. Watanabe, N. Taguchi, Y. Okiyama, M. Tsuboi, T. Nakano, S. Tanaka, Chem. Phys. Lett., 493 (2010) 346.

[17] “Fragment molecular orbital (FMO) calculations on DNA by a scaled third-order Moeller-Plesset perturbation (MP2.5) scheme”, H. Yamada, Y. Mochizuki, K. Fukuzawa, Y. Okiyama, and Y. Komeiji, Comp. Theor. Chem. 1101 (2017) 46.

[18] https://www.r-ccs.riken.jp/library/topics/fugaku-coronavirus.html

Open Ver. 1 Rev. 22 (2020年6月版)の主な機能

Open Ver. 1 Rev. 22では、下記の機能が利用可能となっています。

  • エネルギー

→ FMO4: HF, MP2 (CD)

→ FMO2:HF, LRD, MP2, MP3, CC/MBPT

  • エネルギー微分

→ FMO4: HF, MP2

→ FMO2: MP2構造最適化(凍結領域可), MD

  • その他機能

→ SCIFIE, CAFI, 重要データ書出し(CPF, IDF)

→ MCP, PB水和, BSSE-CP

→ PIEDA, FILM

→ sp2炭素での切断 (部分FMO3)

→ GUI(BioStation Viewer)

  • 並列化環境(PC~スパコン)

→ MPI, OpenMP/MPI混成

→ MP2エネルギーはOpenMP/MPI/MPIの3階層混成

→ 最深部はBLAS処理 (DGEMM)

 

Open Ver. 1 Rev. 22 (2020年6月版)の開発者

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(FOCUS), 沖山佳生(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 加藤幸一郎(九州大学), 渡辺尚貴(みずほ情報総研), 秋永宜伸(ヴァイナス), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 山本純一(NECソリューションイノベータ), 山下勝美(元 NECソフト), 村瀬匡(元 NECソフト), 石川岳志(鹿児島大学 学術研究院 理工学域工学系), 古明地勇人(産業技術総合研究所 バイオシステム部門), 加藤雄司(元 立教大学 理学部), 塚本貴志(みずほ情報総研), 森寛敏(中央大学 理工学部), 奥脇弘次(立教大学 理学部), 田中成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科), 加藤昭史(スコーピオンテック), 渡邉千鶴(理研 横浜), 福澤薫**(星薬科大学 薬学部) (*ABINIT-MP取り纏め責任者 / **BioStation Viewer責任者)

応用分野

ABINIT-MPのFMO計算は、開発当初から生体分子関係、特にタンパク質とリガンド(薬品分子)の複合系に対して主に用いられてきました。これは、計算で得られるフラグメント間相互作用エネルギーがアミノ酸残基間、あるいはリガンド-アミノ酸残基間の相互作用の状態を理解するのに好適なためです[1]。しかし、FMO計算は生体系に限られるだけでなく、水和凝集系や一般の高分子、あるいは固体[19-21]なども扱える潜在力を持っています。「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発活動の中では、有効相互作用パラメータをFMOで求めて高分子の粗視化シミュレーションを行うマルチスケール計算手法と応用が進められ[22-24]、さらに脂質膜[25]やタンパク質[26]にも適用されました。

ABINIT-MPの利活用が、今後こうした一般の化学工学や材料科学、あるいは応用物理関係の分野へも広がっていくことを期待していますし、そのための整備とエビデンスの集積を推進していきます。また、多構造サンプルの計算結果を統計的に解析する試み(機械学習も適宜利用)も始まっています[27,28]。


[19] “Modeling of peptide – silica interaction based on four-body corrected fragment molecular orbital (FMO4) calculations”, Y. Okiyama, T. Tsukamoto, C. Watanabe, K. Fukuzawa, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 566 (2013) 25.

[20] “Modeling of hydroxyapatite – peptide interaction based on fragment molecular orbital method”, K. Kato, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 629 (2015) 58.

[21] “Interaction between calcite and adsorptive peptide analyzed by fragment molecular orbital method”, K. Kato, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, Jpn. J. Appl. Phys., 58 (2019) 120906.

[22] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 338.

[23] “フラグメント分子軌道(FMO)法を用いた散逸粒子動力学シミュレーションのための有効相互作用パラメータ算出の自動化フレームワーク”, 奥脇弘次, 土居英男, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn. 17 (2018) 102.

[24] “Theoretical Analyses on Water Cluster Structures in Polymer Electrolyte Membrane by Using Dissipative Particle Dynamics Simulations with Fragment Molecular Orbital Based Effective Parameters”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, S. Kawada, T. Ozawa, K. Yasuoka, RSC Adv. 8 (2018) 34582.

[25] “Dissipative particle dynamics (DPD) simulations with fragment molecular orbital (FMO) based effective parameters for 1-Palmitoyl-2-oleoyl phosphatidyl choline (POPC) membrane”, H. Doi, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, T. Ozawa, K. Yasuoka, Chem. Phys. Lett. 684 (2017) 427.

[26] “Folding simulation of small proteins by dissipative particle dynamics (DPD) with non-empirical interaction parameters based on fragment molecular orbital calculations”, K. Okuwaki, H. Doi, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, Appl. Phys. Express 13 (2020) 017002.

[27] “Destabilization of DNA through interstrand crosslinking by UO22+”, A. Rossberg, T. Abe, K. Okuwaki, A. Barkleit, K. Fukuzawa, T. Nakano, Y. Mochizuki, S. Tsushima, Chem. Comm. 55 (2019) 2015.

[28] “Cm3+/Eu3+ Induced Structural, Mechanistic and Functional Implications for Calmodulin”, B. Drobot, M. Schmidt, Y. Mochizuki, T. Abe, K. Okuwaki, F. Brulfert, S. Falke, S. A. Samsonov, Y. Komeiji, C. Betzel, T. Stumpf, J. Raff, S. Tsushima, Phys. Chem. Chem. Phys. 21 (2019) 21213.

Openシリーズの今後のリリース

ABINIT-MPには、主に開発の経緯的な事由から「ローカル版」が存在しています[1]。Openシリーズでは、Ver. 1 Rev. 20まで統合を図ってきましたが、励起エネルギー[29,30]や動的分極率[31]の算定については整備計画の変更もあり、残念ながら公開に至りませんでした。「フラッグシップ2020 重点課題6」は2019年度(2020年3月)で終了していますが、今後もリリースを続けていきたいと考えています。Ver. 1系の最終版の位置づけとなるRev. 25は2021年春の公開を目指しており、Rev. 22に上記の励起状態関係の機能、機械学習用データのダンプの機能、福澤准教授が参画されているAMED-BINDSプロジェクト[32]で整備中の凍結領域構造最適化[33]などが入る予定です。また、MP2エネルギー微分のベクトル化も対応予定です。

Ver. 2はVer. 1 Rev. 25をベースとしますが、P系では鹿児島大学の石川岳志教授のPAICS [34]から2電子積分の恒等分解(RI)に基づくRI-MP2/MP3モジュール(C言語で記述)が移植されて使えるようになります(ローカル版での作業は既に完了)。一方、S系では石村和也氏のSMASH [35]から提供いただいている積分モジュールやDFT機能を前面に出すことになります(LRDでの数値積分でDFTのルーチンは既に一部を利用)。また、超大規模系となる1万フラグメントまでの対応も検討しています。

OpenシリーズのHPCI拠点以外でのバイナリのオンデマンド的な提供は今後も継続し、以下のようなプラットフォームを対象(予定含む)とします(2020年6月時点)。

  • PC: Windows 10 (64 bit)
  • 小規模サーバ: Intel Xeon (IA64) & Xeon Phi (Knights Landing)
  • スーパーコンピュータ: Intel Xeon系, 富士通-ARM系, NEC-SX系 (Vector)

 


[29] “Configuration interaction singles method with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, S. Koikegami, S. Amari, K. Segawa, K. Kitaura, and T. Nakano, Chem. Phys. Lett. 406 (2005) 283.

[30] “Parallelized integral-direct CIS(D) calculations with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, K. Yamashita, T. Ishikawa, T. Nakano, S. Amari, K. Segawa, T. Murase, H. Tokiwa, M. Sakurai, Theor. Chem. Acc. 117 (2007) 541.

[31] “Dynamic polarizability calculation with fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, T. Ishikawa, K. Tanaka, H. Tokiwa, T. Nakano, S. Tanaka, Chem. Phys. Lett. 418 (2006) 418.

[32] https://www.binds.jp/

[33] “Geometry Optimization of the Active Site of a Large System with the Fragment Molecular Orbital Method”, D. G. Fedorov, Y. Alexeev, K. Kitaura, J. Phys. Chem. Lett. 2 (2011) 282.

[34] http://www.paics.net/

[35] http://smash-qc.sourceforge.net/

FMO創薬コンソーシアム

2015年度から「FMO創薬コンソーシアム」(代表:星薬科大学 福澤薫 准教授)が産官学で組織され、「京」を計算資源としてABINIT-MPによるFMO計算基づくタンパク質・リガンドの相互作用解析が進められてきました[36](2020年度はOakForest-PACS上で活動)。重要な創薬ターゲットが設定されており、当該領域の共有基盤となる知見(特にIFIEのデータセット)が蓄積されています(IFIEはデータベース公開)[37]。ABINIT-MPはOpenシリーズとして改良が続けられていきますが、このコンソーシアムは実践的な利用者コミュニティとして重要な役割を果たしていくことになります。追記となりますが、BioStation Viewerはサイト[36]からダウンロード可能です。


[36] https://fmodd.jp/

[37] “Development of an automated fragment molecular orbital (FMO) calculation protocol toward construction of quantum mechanical calculation database for large biomolecules”, C. Watanabe, H. Watanabe, Y. Okiyama, D. Takaya, K. Fukuzawa, S. Tanaka, T. Honma, CBI-J. 19 (2019) 5.

開発系コンソーシアム

ABINIT-MPのOpenシリーズの開発や保守にソースレベルでコミットしていただくための産官学の枠組みです(コンタクト先:立教大学 望月祐志)。バグ情報と対策、新規開発の機能のシェアなど意図していますが、参画される企業様が商用に独自の高速化や改良を図ることは基本的に可とする方針です。現段階では、個別にご参画をお願い・確認させていただいており、分子科学研究所の藤田貴敏准教授からは励起状態計算機能[38,39]を提供いただくことになっています(リリースはVer. 2での予定)。その他にも、周期境界条件を課したFMOベースのMDの整備なども進んでいます。


[38] “Development of the Fragment Molecular Orbital Method for Calculating Non-local Excitations in Large Molecular Systems”, T. Fujita, Y. Mochizuki, J. Phys. Chem. A 122 (2018) 3886.

[39] “Development of the fragment-based COHSEX method for large and complex molecular systems”, T. Fujita, Y. Noguchi, Phys. Rev. B 98 (2018) 205140.

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズのご利用、あるいは開発系コンソーシアムにご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければと思います(-at-を@に変換してください)。ご所望の利用形態に応じて、個別に契約書面の取り交わしをさせていただき、ご提供したいと思います。よろしくお願いいたします。

ABINIT-MP Openシリーズ(Ver. 1 Rev. 15)

※2018年2月版(Ver.1 Rev.10)に関するページはこちらです

はじめに

ABINIT-MPは、フラグメント分子軌道(FMO)計算を高速に行えるソフトウェアです[1]。専用GUIのBioStation Viewerとの連携により、入力データの作成~計算結果の解析が容易に行えます。4体フラグメント展開(FMO4)による2次摂動計算も可能です。また、部分構造最適化や分子動力学の機能もあります。FMOエネルギー計算では、小規模のサーバから超並列機の「京」まで対応しています(Flat MPIとOpenMP/MPI混成)。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

特徴

ABINIT-MPは使い易いFMOプログラムで、4体フラグメント展開までが可能です。研究室単位のLinux/Intel系サーバに標準搭載されているMPI環境で動作しますし、特別な設定も必要ありません。また、煩雑で注意深さを要するフラグメント分割を伴う入力データの作成は随伴GUIのBioStation Viewer(Windowsで動作)を使うなどすれば容易に作成出来ます。また、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)などの計算結果は膨大となりプリントからの理解はしばしば困難ですが、Viewerを使うと可視的・直観的に対象系の相互作用の様態を把握出来ます。

開発の経緯

ABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CREST「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学 田中成典教授)と立教大学SFR(担当:望月祐志)などの支援を得て、10年以上に渡って開発が進められてきました。Intel Xeon (IA64)系バイナリは、Ver.7が東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センター[2]で利用可能となっています(2019年3月時点)。

現在は、東京大学工学研究科を代表拠点とする「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)[3]の中で、Openシリーズとして機能強化・高速化とリリースが行われています(取り纏め責任者:立教大学 望月祐志)。第一版は、バイナリで公開してきましたVer. 7を元にメモリー要求の軽減などの改良を施したもので、2016年12月にまとまったVer. 1 Rev. 5です。Rev. 5は、HPCI関係では理研AICSの「京」、東京工業大学のTSUBAME、東京大学・筑波大学のJCAHPCのOakForest-PACSにライブラリ(バイナリ)として提供されました。

Ver. 1 Rev. 5をベースとして成分毎の相互作用エネルギー解析(PIEDA)[4]、局在化軌道による分散力の局所解析(FILM)[5]などの機能強化を図った版が2018年2月リリースのVer. 1 Rev. 10です。また、OakForest-PACS向けでは利用頻度の高いMP2エネルギーでOpenMP/MPI/MPIの3階層の並列化実行も可能となりました(OakForest-PACSなどのメニーコア環境への対応)。

2019年3月リリース最新のVer. 1 Rev. 15では、ペプチド結合部分のカルボニル酸素(>C=O)による相互作用で、しばしば問題になってきた「相互作用フラグメントの帰属ズレ問題」に対する解決策の一つとして、部分3体展開下でsp2混成炭素(BDA)でのフラグメント切断が可能となりました。エネルギー微分にも対応しています(論文投稿を準備中)。もう一つの新規機能は、局所応答分散(LRD)[6]によってMP2に代わって分散力による安定化エネルギーを算定出来るようになったことで(論文投稿を準備中)、計算コストとメモリー要求がMP2に比して低いので大きな系を扱うのに有利です。また、結合クラスター展開(CCSD(T)も可)と多体摂動(MBPT)のモジュール[7]が旧JST-CREST版から移植されました。その他、ポアソンボルツマン(PB)型の水和でキャビティを定義する有効原子半径の汎用性を上げています。


[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/

[3] http://postk6.t.u-tokyo.ac.jp/

[4] “Pair Interaction Energy Decomposition Analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222.

[5] “Fragment interaction analysis based on local MP2”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, S. Amari, T. Nakano, H. Tokiwa, S. Tanaka, K. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 118 (2007) 937.

[6] “Density functional method including weak interactions: Dispersion coefficients based on the local response approximation”, T. Sato, H. Nakai, J. Chem. Phys. 131 (2009) 224104-1.

[7] “Higher-order correlated calculations based on fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Yamashita, T. Nakano, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, N. Taguchi, and S. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 130 (2011) 515.

Open Ver. 1 Rev. 15 (2019年3月版)の主な機能

上記にもありますが、Open Ver. 1 Rev. 15でのRev. 10に対しての機能追加の大きなポイントは、sp2炭素による切断(ペプチド結合でのフラグメント分割が可能)とLRDによる分散力補正(PIEDAでも可能)です。

  • エネルギー

→ FMO4: HF, MP2 (CD)

→ FMO2:HF, LRD, MP2, MP3, CC/MBPT

  • エネルギー微分

→ FMO4: HF, MP2

→ FMO2: MP2構造最適化, MD

  • その他機能

→ sp2炭素での切断 (FMO3SL下)

→ SCIFIE, CAFI, 重要データ書出し

→ MCP, PB水和, BSSE-CP

→ PIEDA, FILM

→ GUI(BioStation Viewer)

  • 並列化環境(PC~スパコン)

→ MPI, OpenMP/MPI混成

→ MP2エネルギーはOpenMP/MPI/MPIの3階層混成

→ 最深部はBLAS処理 (DGEMM)

 

Open Ver. 1 Rev. 15 (2019年3月版)の開発者

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(NEC), 沖山佳生(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 秋永宜伸(ヴァイナス), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 加藤幸一郎(みずほ情報総研), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 山本純一(NECソリューションイノベータ), 山下勝美(元 NECソフト), 村瀬匡(元 NECソフト), 石川岳志(鹿児島大学 学術研究院 理工学域工学系), 古明地勇人(産業技術総合研究所 バイオシステム部門), 加藤雄司(元 立教大学 理学部), 渡辺尚貴(みずほ情報総研), 塚本貴志(みずほ情報総研), 森寛敏(中央大学 理工学部), 奥脇弘次(星薬科大学 薬学部), 田中成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科), 加藤昭史(スコーピオンテック), 渡邉千鶴(理研 横浜), 福澤薫(星薬科大学 薬学部)

(*取り纏め責任者)

応用分野

ABINIT-MPのFMO計算は、開発当初から生体分子関係、特にタンパク質とリガンド(薬品分子)の複合系に対して主に用いられてきました。これは、計算で得られるフラグメント間相互作用エネルギーがアミノ酸残基間、あるいはリガンド-アミノ酸残基間の相互作用の状態を理解するのに好適なためです[1]。しかし、FMO計算は生体系に限られるだけでなく、水和凝集系や一般の高分子、あるいは固体なども扱える潜在力を持っています。実際、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発活動の中では、有効相互作用パラメータをFMOで求めて高分子の粗視化シミュレーションを行うマルチスケール計算手法と応用が進められています[8-11]。ABINIT-MPの応用は、今後はこうした一般の化学工学や材料科学、あるいは応用物理関係の分野へも広がっていくことを期待していますし、そのための整備とエビデンスの集積を推進していきます。また、多構造サンプルの計算結果を統計的に解析する試み(機械学習も適宜利用)も始まっています[12,13]。

 


[8] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 338.

[9] “フラグメント分子軌道(FMO)法を用いた散逸粒子動力学シミュレーションのための有効相互作用パラメータ算出の自動化フレームワーク”, 奥脇弘次, 土居英男, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn. 17 (2018) 102.

[10] “Dissipative particle dynamics (DPD) simulations with fragment molecular orbital (FMO) based effective parameters for 1-Palmitoyl-2-oleoyl phosphatidyl choline (POPC) membrane”, H. Doi, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, T. Ozawa, K. Yasuoka, Chem. Phys. Lett. 684 (2017) 427.

[11] “Theoretical Analyses on Water Cluster Structures in Polymer Electrolyte Membrane by Using Dissipative Particle Dynamics Simulations with Fragment Molecular Orbital Based Effective Parameters”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, S. Kawada, T. Ozawa, K. Yasuoka, RSC Adv. 8 (2018) 34582.

[12] “FMOプログラムABINIT-MPの開発状況と機械学習との連携”, 望月祐志, 坂倉耕太, 秋永宜伸, 加藤幸一郎, 渡邊啓正, 沖山佳生, 中野達也, 古明地勇人, 奥沢明, 福澤薫, 田中成典, J. Comp. Chem. Jpn. 16 (2017) 119.

[13] “Destabilization of DNA through interstrand crosslinking by UO22+”, A. Rossberg, T. Abe, K. Okuwaki, A. Barkleit, K. Fukuzawa, T. Nakano, Y. Mochizuki, S. Tsushima, Chem. Comm. 55 (2019) 2015.

Openシリーズの今後のリリース

ABINIT-MPには、主に開発の経緯的な事由から「ローカル版」が存在しています[1]。これらでは、励起エネルギーや動的分極率の算定、さらに結合クラスター展開による高精度エネルギー計算などが利用出来ます。こうした機能に関心を持たれる方も居られますし、手持ちのマシン環境によっては再コンパイルやチューニングのためにソースを所望される場合もあります。こうした状況を改善すべく、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発の中で産官学を交えたコンソーシアム的な組織でABINIT-MPのソース共有を行い、継続的なコード開発・改良と保守を図っていく活動の中でリリースされていくのがOpenシリーズです。なお、GUI であるBioStation Viewerについては2018年の秋から星薬科大学の福澤薫准教授に更新・整備の管轄が移りました。

2019年度は、Ver. 1 Rev. 15に対して旧JST-CREST系の励起エネルギー算定機能[14]の復活を図り、Rev. 20を調製します。また、福澤准教授関係の厚労省AMED/BINDS系の成果として、部分構造最適化に好適な凍結領域制限(FD)[15]の機能、それに国立医薬品食品衛生研究所の沖山佳生氏によるポアソン-ボルツマン型溶媒和の新しいモデル(PBSA)[16]も導入される予定です。リリースは2019年の10月の予定ですが、Ver. 1の更新としてはここまでとなります。

大きな改造を伴いつつ整備を進めてきているOpen Ver.2では、石村和也氏のSMASH[17]から提供いただいている積分モジュールやDFT機能を前面に出すことになります(LRDでの数値積分でDFTのルーチンを既に一部利用)。また、また2電子積分の恒等分解(RI)のモジュール(C言語で記述)を鹿児島大学の石川岳志教授のPAICS[18]から移植(作業はほぼ完了)してRI-MP2エネルギーと微分が利用可能となります。Ver. 2のリリースは2020年の1月の見込みです。

ソースの共有とは別にOpenシリーズでも従来のバイナリでの提供も続ける予定で、以下のようなプラットフォームを対象にしています(2019年3月時点)。

  • PC: Windows (64 bit)
  • 小規模サーバ: Intel Xeon (IA64) & Xeon Phi (Knights Corner & Landing)
  • スーパーコンピュータ: 富士通系{「京」, FX-10, FX-100, OakForest-PACS}

この他、海洋研究開発機構 地球情報基盤センターのご支援により、ベクトル型スーパーコンピュータであるNECのSX-ACEにも対応作業を進めています。

HPCI拠点でのライブラリプログラムとしての登録は、高度情報科学技術研究機構(RIST)のご支援を2018年度の下期から受けており、Ver. 1 Rev. 15等についても整備を進めていく予定です。


[14] “Parallelized integral-direct CIS(D) calculations with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, K. Yamashita, T. Ishikawa, T. Nakano, S. Amari, K. Segawa, T. Murase, H. Tokiwa, M. Sakurai, Theor. Chem. Acc. 117 (2007) 541.

[15] “Geometry Optimization of the Active Site of a Large System with the Fragment Molecular Orbital Method”, D. G. Fedorov, Y. Alexeev, K. Kitaura, J. Phys. Chem. Lett. 2 (2011) 282.

[16] “Fragment Molecular Orbital Calculations with Implicit Solvent Based on the Poisson-Boltzmann Equation: II. Protein and Its Ligand-Binding System Studies”, Y. Okiyama, C. Watanabe, K. Fukuzawa, Y. Mochiuzki, T. Nakano, S. Tanaka, J. Phys. Chem. B, 123 (2019) 957.

[17] http://smash-qc.sourceforge.net/

[18] http://www.paics.net/

FMO創薬コンソーシアム

2015年度から「FMO創薬コンソーシアム」(代表:星薬科大学 福澤薫 准教授)が産官学で組織され、「京」を計算資源としてABINIT-MPによるFMO計算基づくタンパク質・リガンドの相互作用解析が進められています[19]。重要な創薬ターゲットが設定されており、当該領域の共有基盤となる知見(特にIFIEのデータセット)が蓄積されています(IFIEはデータベース公開)[20]。ABINIT-MPはOpenシリーズとして改良が続けられていきますが、このコンソーシアムは実践的な利用者コミュニティとして重要な役割を果たしていくことになります。


[19] http://eniac.scitec.kobe-u.ac.jp/fmodd/

[20] “Development of an automated fragment molecular orbital (FMO) calculation protocol toward construction of quantum mechanical calculation database for large biomolecules”, C. Watanabe, H. Watanabe, Y. Okiyama, D. Takaya, K. Fukuzawa, S. Tanaka, T. Honma, CBI-J. 19 (2019) 5.

開発系コンソーシアム

ABINIT-MPのOpenシリーズの開発や保守にソースレベルでコミットしていただくための産官学の枠組みです(コンタクト先:立教大学 望月祐志)。バグ情報と対策、新規開発の機能のシェアなど意図していますが、参画される企業様が商用に独自の高速化や改良を図ることは基本的に可とする方針です。現初期段階では、個別にご参画をお願い・確認させていただいて立上げようとしているところです。今後、このコンソーシアムについても情報を更新していく予定です。

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズのご利用、あるいは開発系コンソーシアムにご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければと思います(-at-を@に変換してください)。ご所望の利用形態に応じて、個別に契約書面の取り交わしをさせていただき、ご提供したいと思います。よろしくお願いいたします。

ABINIT-MP Openシリーズ(Ver. 1 Rev. 10)

※2016年12月版(Ver.1 Rev.5)に関するページはこちらです

はじめに

ABINIT-MPは、フラグメント分子軌道(FMO)計算を高速に行えるソフトウェアです[1]。専用GUIのBioStation Viewerとの連携により、入力データの作成~計算結果の解析が容易に行えます。4体フラグメント展開(FMO4)による2次摂動計算も可能です。また、部分構造最適化や分子動力学の機能もあります。FMOエネルギー計算では、小規模のサーバから超並列機の「京」まで対応しています(Flat MPIとOpenMP/MPI混成)。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

特徴

ABINIT-MPは使い易いFMOプログラムで、4体フラグメント展開までが可能です。研究室単位のLinux/Intel系サーバに標準搭載されているMPI環境で動作しますし、特別な設定も必要ありません。また、煩雑で注意深さを要するフラグメント分割を伴う入力データの作成は随伴GUIのBioStation Viewer(Windowsで動作)を使うなどすれば容易に作成出来ます。また、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)などの計算結果は膨大となりプリントからの理解はしばしば困難ですが、Viewerを使うと可視的・直観的に対象系の相互作用の様態を把握出来ます。

開発の経緯

ABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CREST「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学 田中成典教授)と立教大学SFR(担当:望月祐志)などの支援を得て、10年以上に渡って開発が進められてきました。Intel Xeon (IA64)系バイナリは、Ver.7が東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センター[2]で利用可能となっています(2018年1月時点)。

現在は、東京大学工学研究科を代表拠点とする「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)[3]の中で、Openシリーズとして機能強化・高速化とリリースが行われています(取り纏め責任者:立教大学 望月祐志)。第一版は、バイナリで公開してきましたVer. 7を元にメモリー要求の軽減などの改良を施し、2016年12月にまとまった版がVer. 1 Rev. 5です。Rev. 5は、HPCI関係では理研AICSの「京」、東京工業大学のTSUBAME、東京大学・筑波大学のJCAHPCのOakForest-PACSにライブラリ(バイナリ)として提供されました。

Ver. 1 Rev. 5をベースとして成分毎の相互作用エネルギー解析(PIEDA)[4]、局在化軌道による分散力の局所解析(FILM)[5]などの機能強化を図った最新版が2018年2月リリースのVer. 1 Rev. 10になります。また、OakForest-PACS向けでは利用頻度の高いMP2エネルギーでOpenMP/MPI/MPIの3階層の並列化実行も可能となりました。


[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/

[3] http://postk6.t.u-tokyo.ac.jp/

[4]  “Pair interaction energy decomposition analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222-237.

[5] “Fragment interaction analysis based on local MP2”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, S. Amari, T. Nakano, H. Tokiwa, S. Tanaka, K. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 118 (2007) 937-945.

Open Ver. 1 Rev. 10 (2018年2月版)の主な機能

Open Ver. 1 Rev. 10はこれまでバイナリで公開してきましたVer. 7に準拠していますが、モデル内殻ポテンシャル(MCP)が追加され、メモリ管理の改良によって動作の安定性が向上しています。

  • エネルギー

→ FMO4: HF, MP2 (CD)

→ FMO2: HF, MP2, MP3

  • エネルギー微分

→ FMO4: HF, MP2

→ FMO2: MP2構造最適化, MD

  • その他機能

→ SCIFIE, CAFI, 重要データ書出し

→ MCP, PB水和, BSSE-CP

→ PIEDA, FILM

→ GUI(BioStation Viewer)

  • 並列化環境(PC~スパコン)

→ MPI, OpenMP/MPI混成

→ MP2エネルギーはOpenMP/MPI/MPIの3階層混成(OakForest-PACS向け)

→ 最深部はBLAS処理

 

Open Ver. 1 Rev. 10 (2018年2月版)の開発者(所属)

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(NEC), 沖山佳生(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 秋永宜伸(ヴァイナス), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 加藤幸一郎(みずほ情報総研), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 山本純一(NECソリューションイノベータ),山下勝美(元 NECソフト), 村瀬匡(元 NECソフト), 石川岳志(長崎大学 医歯薬学総合研究科), 古明地勇人(産業技術総合研究所 バイオシステム部門), 加藤雄司(元 立教大学 理学部), 渡辺尚貴(みずほ情報総研), 塚本貴志(みずほ情報総研), 森寛敏(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科), 田中成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科), 加藤昭史(元 みずほ情報総研), 福澤薫(星薬科大学 薬学部), 渡邉千鶴(理研 横浜)

(*取り纏め責任者)

応用分野

ABINIT-MPのFMO計算は、開発当初から生体分子関係、特にタンパク質とリガンド(薬品分子)の複合系に対して主に用いられてきました。これは、計算で得られるフラグメント間相互作用エネルギーがアミノ酸残基間、あるいはリガンド-アミノ酸残基間の相互作用の状態を理解するのに好適なためです[1]。しかし、FMO計算は生体系に限られるだけでなく、水和凝集系や一般の高分子、あるいは固体なども扱える潜在力を持っています。実際、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発活動の中では、有効相互作用パラメータをFMOで求めて高分子の粗視化シミュレーションを行うマルチスケール計算手法と応用が進められています[6,7]。ABINIT-MPの応用は、今後はこうした一般の化学工学や材料科学、あるいは応用物理関係の分野へも広がっていくことを期待していますし、そのための整備とエビデンスの集積を推進していきます。また、統計的な多構造サンプルの計算結果を機械学習によって自動的に解析する試みも始まっています。


[6] “Dissipative particle dynamics (DPD) simulations with fragment molecular orbital (FMO) based effective parameters for 1-Palmitoyl-2-oleoyl phosphatidyl choline (POPC) membrane”, H. Doi, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, T. Ozawa, K. Yasuoka, Chem. Phys. Lett. 684 (2017) 427-432.

[7] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki*, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 338-347.

Openシリーズの今後のリリース

ABINIT-MPには、主に開発の経緯的な事由から「ローカル版」が存在しています[1]。これらでは、励起エネルギーや動的分極率の算定、さらに結合クラスター展開による高精度エネルギー計算などが利用出来ます。こうした機能に関心を持たれる方も居られますし、手持ちのマシン環境によっては再コンパイルやチューニングのためにソースを所望される場合もあります。こうした状況を改善すべく、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発の中で産官学を交えたコンソーシアム的な組織でABINIT-MPのソース共有を行い、継続的なコード開発・改良と保守を図っていく活動の中でリリースされていくのがOpenシリーズです。BioStation Viewerについても、随時Openシリーズへの対応を図っていきます。

現在、Ver. 1 Rev. 10を元にフラグメント分割箇所の自由度を向上させるなどの機能的改良を進めています。この版は、Rev. 15として2018年後半にリリースする予定です。

大きな改造を伴いつつ整備を進めているOpen Ver.2では、密度汎関数(DFT)のモジュールなどを分子科学研究所の石村和也研究員のSMASH[8]から、また2電子積分の恒等分解(RI)のモジュール(C言語で記述)を長崎大学の石川岳志准教授のPAICS[9]から移植しています。Ver. 2のリリースは2019年の上期を見込んでいます。

ソースの共有とは別にOpenシリーズでも従来のバイナリでの提供も続ける予定で、以下のようなプラットフォームを対象にしています(2018年2月時点)。

  • PC: Wndows 7 (64 bit)
  • 小規模サーバ: Intel Xeon (IA64) & Xeon Phi (Knights Corner & Landing)
  • スーパーコンピュータ: 富士通系{「京」, FX-10, FX-100, OakForest-PACS}

なお、ベクトル型スーパーコンピュータであるNECのSX-ACEにも対応作業を進めています(Ver. 1 Rev. 10系)。

「京」でのABINIT-MPの多数のジョブの自動実行に関しては、九州大学の小野謙二教授・理研AICSで開発しているWHEEL[10]を使ったインターフェースを整備中です


[8] http://smash-qc.sourceforge.net/

[9] http://www.paics.net/

[10] https://github.com/RIIT-KyushuUniv/WHEEL

FMO創薬コンソーシアム

2015年度から「FMO創薬コンソーシアム」(代表:星薬科大学 福澤薫 准教授)が産官学で組織され、「京」を計算資源としてABINIT-MPによるFMO計算基づくタンパク質・リガンドの相互作用解析が進められています[11]。重要な創薬ターゲットが設定されており、当該領域の共有基盤となる知見(特にIFIEのデータセット)の蓄積が期待されます。ABINIT-MPはOpenシリーズとして今後も改良が続けられていきますが、このコンソーシアムは実践的な利用者コミュニティとして重要な役割を果たしていくことになります。


[11] http://eniac.scitec.kobe-u.ac.jp/fmodd/

開発系コンソーシアム

ABINIR-MPのOpenシリーズの開発や保守にソースレベルでコミットしていただくための産官学の枠組みです(コンタクト先:立教大学 望月祐志)。バグ情報と対策、新規開発の機能のシェアなど意図していますが、参画される企業様が商用に独自の高速化や改良を図ることは基本的に可とする方針です。現初期段階では、個別にご参画をお願い・確認させていただいて立上げようとしているところです。今後、このコンソーシアムについても情報を更新していく予定です。

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズのご利用、あるいは開発系コンソーシアムにご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければと思います(-at-を@に変換してください)。ご所望の利用形態に応じて、個別に契約書面の取り交わしをさせていただき、ご提供したいと思います。よろしくお願いいたします。


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