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ABINIT-MP Openシリーズ (Ver.2 Rev.4)

※2020年6月版(Ver.1 Rev.22)に関するページはこちらです

はじめに

フラグメント分子軌道(FMO)計算のプログラムABINIT-MP [1,2]のOpenシリーズは、2021年度にVer. 2系に移行しました。Ver. 2系では、これまで通りの機能の拡充に加え、常用されるメラープレセット2次摂動(MP2)レベルのジョブの「富岳」(理研)などの富士通A64FX系スーパーコンピュータでの数倍を睨んだ高速化、ならびに将来的には数万フラグメントの系を扱える大規模化対応が進められています。

A64FX向け高速化の第一段階として、SIMD(Single Instruction Multiple Data)化による2電子積分生成ルーチン群の改良が行われました。一方の大規模化対応では、フラグメント数の自乗的な配列を「FMO計算に本質的に必要なもの」のみに絞り込み、1万フラグメントの「壁」を超えました。この配列周りの改造に伴い、Ver. 1系までサポートされていた可視化インターフェースであるBSV(BioStation Viewer)での後解析のためのCPF(Check Point File)の書き出しを止めることになりました(BSV用にだけ保持する配列数が多数あるため)。標準的なスペックのWindows10 PCでは数千フラグメントの系のBSVでの可視化が困難であること、また分子動力学(MD)シミュレーションによって生成された多サンプル構造による統計的な相互作用エネルギー解析が増えてきていること、この2点もCPFのサポートを打ち切った判断の背景にはあります。

BSVを使った可視化的な解析については、今後も併存的に提供するVer. 1 Rev. 22を使っていただくことになりますが、Ver. 2系で入っていく新機能や種々の改良は今後とも反映されないことをお断りしておきます。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

[2] “The ABINIT-MP Program”, Y. Mochizuki, T. Nakano, K. Sakakura, Y. Okiyama, H. Watanabe, K. Kato, Y. Akinaga, S. Sato, J. Yamamoto, K. Yamashita, T. Murase, T. Ishikawa, Y. Komeiji, Y. Kato, N. Watanabe, T. Tsukamoto, H. Mori, K. Okuwaki, S. Tanaka, A. Kato, C. Watanabe, K. Fukuzawa (pp.53-67) in “Recent Advances of the Fragment Molecular Orbital Method – Enhanced Performance and Applicability”, ed. by Y. Mochizuki, S. Tanaka, K. Fukuzawa, (2021, Springer, Singapore).

Open Ver. 2 Rev. 4

Ver. 2系の最初のリリース版がRev. 4(2021年8月)です。機能的には、CPHF(Coupled-Perturbed Hartree-Fock)/LR(Linear Response)による動的分極率の算定[3]、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE: Inter-Fragment Interaction Energy)の機械学習用[4,5]の記述子データのダンプが可能となりました。分極率の評価は、機能性材料の解析や設計などで有用と思わます。図1に、Dodecaneのcc-pVDZ基底での動的分極率の計算例を示します。また、図2のchignolinのFMO-MP2/cc-pVDZの計算例のように記述子データはpython系ツールでの後処理に便利な形で出力されます。

A64FX実行環境での高速化に関しては、2電子積分のSIMD化によってFMO-MP2計算では、Ver. 1 Rev. 2に比べて若干速くなっています(系とノード数にも依存)。図3に、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のクローズ構造PDB-ID=6VXX(3.3千残基)のFMO-MP2/6-31G*計算のVer. 1 Rev. 22とVer. 2 Rev. 4の「富岳」の8ラック、つまり3072ノード(48スレッド×3072プロセス)での時間比較を示します。ジョブ時間の短縮は62.7分→51.9分で、ステップ毎の比較では、モノマーSCC(Self-Consistent-Charge)条件を満たすまでフラグメントのHF(Hartree-Fock)計算が繰り返されるステップが速くなっていることが分かります。その他、細かな改良も施して加速を得ています。

大規模系への対応では、図4に示すインフルエンザウイルスのヘマグルチニンとFab抗体2つの複合体PDB-ID=1KENの水和モデル(MDで構造を生成)、総数で1.1万フラグメント(水とイオンが約9千個)の系のFMO-MP2/6-31G*ジョブが「富岳」の1ラックでは5.3時間で完走します。


[3] “Dynamic polarizability calculation with fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, T. Ishikawa, K. Tanaka, H. Tokiwa, T. Nakano, S. Tanaka, Chem. Phys. Lett. 418 (2006) 418-422.

[4] “フラグメント分子軌道(FMO)計算の結果の自動解析の試み”, 望月祐志, 奥沢明, 計算工学学会誌, 22 (2017) 3539-3542.

[5] “FMOプログラムABINIT-MPの開発状況と機械学習との連携”, 望月祐志, 坂倉耕太, 秋永宜伸, 加藤幸一郎, 渡邊啓正, 沖山佳生, 中野達也, 古明地勇人,奥沢明, 福澤薫, 田中成典, J. Comp. Chem. Jpn., 16 (2017) 119-122.

Open Ver. 2 Rev. 4 (2021年8月版)の開発者

Ver. 2系の整備・開発は、下記のメンバで進められています(2021年8月時点)。

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(計算科学振興財団), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 奥脇弘次(立教大学 理学部)(*取り纏め責任者)

Open Ver. 2 Rev. 4のHPCI拠点への整備

Ver, 2 Rev. 4系は2021年9月から「富岳」、「不老 type I」(名古屋大学)、「Wisteria/Odyssey」(東京大学)のA64FXスーパーコンピュータに順次ライブラリプログラムとして順次登録されていきます。Ver. 1 Rev. 22も併存提供となります。また、実行バイナリには、Zn(II)含有タンパク質の6-31G*基底での計算のようにf型基底関数を要する系に対応する版が通常版と別に用意されます(バイナリのサイズも異なる)[6]。

「SQUIDベクトルノード群」(大阪大学)と「AOBA-A」(東北大学)のNEC SX-Aurora TSUBASAのベクトル型スーパーコンピュータでは、ベクトル化チューニングが施されたVer. 1 Rev. 22が整備されています。このチューニングによって、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼとN3リガンドの複合体PDB-ID=6LU7のFMO-MP2/6-31G*計算では4.6倍の高速化が達成されています。

他に、「ITO Subsystem A」(九州大学)、「TSUBAME」(東京工業大学)、「Grand Chariot」(北海道大学)、「Wisteria/Aquarius」のIntel Xeon系スーパーコンピュータにもVer. 2 Rev. 4とVer. 1 Rev. 22をライブラリプログラムとして2021年内に整備見込みです。

Intel Xeon Phi(Kinghts Landing)を積む「Oakforest-PAICS」(JCAHPC)は2022年3月での退役が近いですが、ハイパースレッディングによって少数ノードで効率よくFMO-MP2計算が実行[7]できますので、Ver. 2 Rev. 4とVer. 1 Rev. 22のライブラリ整備を行います(2021年10月を予定)。


[6] “FMOプログラムABINIT-MPの整備状況2020”, 望月祐志, 坂倉耕太, 渡邊啓正, 奥脇弘次, 加藤幸一郎, 渡辺尚貴, 沖山佳生, 福澤薫, 中野達也, J. Comp. Chem. Jpn., 19 (2020) 142-145.

[7] “FMOプログラムABINIT-MPのOakForest-PACS上での多層並列化と性能評価”, 渡邊啓正, 佐藤伸哉, 坂倉耕太, 齊藤天菜, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn., 17 (2018) 147-149.

Open Ver.2系の今後のリリース

Open Ver. 2系では、Ver. 1系までの生物物理・創薬系での応用重視から一般の化学分野での利用を強く意識した機能強化が図られる予定です。

Ver. 2の次のリリース版となるRev. 8では、IFIEの成分分析(PIEDA)[8,9]にLRD(Local Response Dispersion)機能[10]が入り、単一ジョブでの処理が可能となります。LRDもOpenMP/MPIの混成並列に対応します。通常のPIEDAでは、相関エネルギー補正を“DI”(分散:Dispersionの意)として括っているのですが、実際には分散力系の安定化エネルギーだけではなく、過剰なイオン性の低減などの電子相関の導入によるエネルギー低下も含まれており、個々のフラグメントの組み合わせによって両者の割合は変わります[11]。LRDではHF電子密度の多重極展開によって分散力系の安定化だけを算定しますので、“DI”の内訳を分けて解析できます。2021年8月時点で機能テスト中となっています。

長年の懸案となっている、多層FMO(MFMO)[12]によるCIS(Configuration Interaction Singles)系の励起エネルギーの算定機能[13-16]もRev. 8で「復活」します(2021年度下期に作業予定)。また、スケーリング補正付の2次のグリーン関数によるイオン化ポテンシャルの計算[17]もできるようになります。

Rev. 8での高速化と大規模系への対応は、FMO-MP2/6-31G*ジョブを基準に「可能な限りの向上」を図ることになりそうです。

Rev. 8の次はRev. 12を想定しており、これまでのMCP(Model Core Potential)[18]だけでなく、石村和也氏のSMASH[19]からのECP(Effective Core Potential)モジュールの移植によりLANL2DZ[20-22]の使用を可能とする予定です。ECPの方がカバーしている重元素が多く、GAUSSIANの結果との比較も直截です。


[8] “Pair Interaction Energy Decomposition Analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222-237.

[9] “相互作用エネルギー成分分割解析機能PIEDAの実装とタンパク質-リガンド間の相互作用解析”, 塚本貴志, 加藤幸一郎, 加藤昭史, 中野達也, 望月祐志, 福澤薫, J. Comp. Chem. Jpn., 14 (2015) 1-9.

[10] “Density functional method including weak interactions: Dispersion coefficients based on the local response approximation”, T. Sato, H. Nakai, J. Chem. Phys. 131 (2009) 224104-1-12.

[11] “Fragment Molecular Orbital Based Interaction Analyses on Complexes Between SARS-CoV-2 RBD Variants and ACE2”, K. Akisawa, R. Hatada, K. Okuwaki, S. Kitahara, Y. Tachino, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, S. Tanaka, Jpn. J. Appl. Phys. 60 (2021) 090901-1-5.

[12] “Multilayer Formulation of the Fragment Molecular Orbital Method (FMO)”, D. G. Fedorov, T. Ishida, K. Kitaura, J. Phys. Chem. A, 109 (2005) 2638-2646.

[13] “Configuration interaction singles method with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, S. Koikegami, S. Amari, K. Segawa, K. Kitaura, T. Nakano, Chem. Phys. Lett. 406 (2005) 283-288.

[14] “Parallelized integral-direct CIS(D) calculations with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, K. Yamashita, T. Ishikawa, T. Nakano, S. Amari, K. Segawa, T. Murase, H. Tokiwa, M. Sakurai, Theor. Chem. Acc. 117 (2007) 541-553.

[15] “Modification for spin-adapted version of configuration interaction singles with perturbative doubles”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, Chem. Phys. Lett., 443 (2007) 389-397.

[16] “A practical use of self-energy shift for the description of orbital relaxation”, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 453 (2008) 109-116.

[17] J. Linderberg, Y. Öhrn, “Propagators in Quantum Chemistry, Second Edition”, (2004, Wiley, Hoboken NJ).

[18] “Fragment molecular orbital calculations on large scale systems containing heavy metal atom”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, T. Nakano, S. Amari, H. Mori, H. Honda, T. Fujita, H. Tokiwa, S. Tanaka, Y. Komeiji, K. Fukuzawa, K. Tanaka, E. Miyoshi, Chem. Phys. Lett., 427 (2006) 159-165.

[19] https://sourceforge.net/projects/smash-qc/

[20] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for the transition metal atoms Sc to Hg”, P. J. Hay, W. R. Watt, J. Chem. Phys. 82 (1985) 270-283.

[21] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for main group elements Na to Bi”, W. R. Watt, P. J. Hay, J. Chem. Phys. 82 (1985) 284-298.

[22] “Ab initio effective core potentials for molecular calculations. Potentials for K to Au including the outermost core orbitals”, P. J. Hay, W. R. Watt, J. Chem. Phys. 82 (1985) 299-310.

謝辞

ABINIT-MP Open Ver. 2系のA64FX向けの高速化と大規模系への対応は、学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点(JHPCN)の2021年度課題jh210036-NAH「FMOプログラムABINIT-MPの高速化と超大規模系 への対応」(代表者:望月祐志)の中で展開されており、A64FXスーパーコンピュータ「不老」を備える名古屋大学情報基盤センターの片桐孝洋・大島聡史先生の研究室とのコラボレーションで進行しています。また、富士通(株)様のサイエンティフィック・システム研究会(SS研)の「A64FXシステムアプリ性能検討WG」の活動とも連動しており、種々のサポートをいただいています。

「富岳」でのテスト計算は、2021年度のHPCI課題hp210026「新規感染症のための計算科学的解析環境の整備」(代表者:望月祐志)の中で行っています。

NEC SX-Aurora TSUBASA向けのベクトル化チューニング、さらに解析機能向上については日本電気(株)様からご支援をいただいています。また、数社様からの立教大学への寄付金を得て、2020~2021年度のABINIT-MPプログラムの研究開発と維持ができています。

HPCI拠点へのABINIT-MPのライブラリ整備やハンズオンセミナーでお世話になっている(一財)高度情報科学技術研究機構(RIST)に謝意を表します。

最後に、「計算工学ナビ」サイトでのABINIT-MPの情報公開で長年ご支援いただいている東京大学生産技術研究所の加藤千幸先生、同革新的シミュレーション研究センターにも感謝したいと思います。

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズの個別のご利用、あるいはプログラム開発にご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければ対応させていただきます(-at-を@に変換してください)。

ABINIT-MP Openシリーズ (Ver.1 Rev.22)

※2019年3月版(Ver.1 Rev.15)に関するページはこちらです

はじめに

ABINIT-MPは、フラグメント分子軌道(FMO)計算を高速に行えるソフトウェアです[1]。専用GUIのBioStation Viewerとの連携により、入力データの作成~計算結果の解析が容易に行えます。4体フラグメント展開(FMO4)による2次摂動計算も可能です。また、部分構造最適化や分子動力学の機能もあります。FMOエネルギー計算では、小規模のサーバから超並列スパコンまで対応しています(Flat MPIとOpenMP/MPI混成)。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

特徴

ABINIT-MPは使い易いFMOプログラムで、4体フラグメント展開までが可能です。研究室単位のLinux/Intel系サーバに標準搭載されているMPI環境で動作しますし、特別な設定も必要ありません。また、煩雑で注意深さを要するフラグメント分割を伴う入力データの作成は随伴GUIのBioStation Viewer(Windowsで動作)を使うなどすれば容易に作成出来ます。また、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)などの計算結果は膨大となりプリントからの理解はしばしば困難ですが、Viewerを使うと可視的・直観的に対象系の相互作用の様態を把握出来ます。

開発の経緯

ABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする文科省系の「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CRESTの「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学 田中成典教授)と立教大学SFR(担当:望月祐志)などの支援を得て、約20年に渡って開発が進められてきました。Intel Xeon (IA64)系バイナリは、Ver. 7が東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センター[2]で利用可能となっています(2020年3月時点)。

2015年度からは、東京大学工学研究科を代表拠点とする文科省プロジェクト「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)[3]の中で、Openシリーズとして機能強化・高速化とリリースが行われてきました(取り纏め責任者:立教大学 望月祐志)。第一版は、バイナリで公開してきているVer. 7を元にメモリー要求の軽減などの改良を施したもので、2016年12月にまとまったVer. 1 Rev. 5 [4]です。Rev. 5は、「京」など幾つかのHPCI拠点にライブラリとして提供されました。

Ver. 1 Rev. 5をベースとし、成分毎の相互作用エネルギー解析(PIEDA)[5]、局在化軌道による分散力の局所解析(FILM)[6]、電荷移動の軌道対解析(CAFI)[7]のなどの解析系の機能強化を図った版が2018年2月リリースのVer. 1 Rev. 10 [8]です。東京大学・筑波大学のJCAHPC管理のメニーコアCPU機であるOakForest-PACS向けには、利用頻度の高いMP2エネルギー計算でOpenMP/MPI/MPIの3階層の並列化実行も可能となりました。なお、2018年の秋から専用GUI であるBioStation Viewerの更新・整備の管轄者は星薬科大学の福澤薫准教授に移りました。

2019年3月にリリースしたVer. 1 Rev. 15 [8]では、ペプチド結合部分のカルボニル酸素(>C=O)による相互作用で、しばしば問題になってきた「相互作用フラグメントの帰属ズレ問題」[9]に対する解決策の一つとして、部分3体展開下でsp2混成炭素(BDA)でのフラグメント切断が可能となりました。エネルギー微分にも対応しています[13]。もう一つの新規機能は、局所応答分散(LRD)[10]によってMP2に代わって分散力による安定化エネルギーを算定出来るようになったことで(論文投稿を準備中)、計算コストとメモリー要求がMP2に比して低いので大きな系を扱うのに有利です。また、結合クラスター展開(CCSD(T)も可)と多体摂動(MBPT)のモジュール[11]が旧JST-CREST版から移植されました。その他、ポアソンボルツマン(PB)型の水和[12]でキャビティを定義する有効原子半径の汎用性を上げています。

「フラッグシップ2020 重点課題6」の枠組みの中での最終版となったのが、Ver. 1 Rev. 20(2020年3月)です。この版では、PB水和での表面領域モデル(PBSA)[14]とPB条件下でのPIEDAの計算がサポートされました。さらに、FMO多層近似[15]によってタンパク質・リガンド複合体の全体ではなく、重要領域のファーマコフォアのみに3次までの摂動(MP3)計算[16]を行い、経験的スケーリング(MP2.5)によってCCSD(T)に近い相互作用エネルギー[17]を得ることも可能となりました。もう1つ追加の機能向上は、基底関数にf型が使えるようになったことで、Zn(II)を含むタンパク質の計算も6-31G*基底で行えます(エネルギー微分も可能)。

Rev. 20に対し、PIEDA処理を大幅に高速化した版が2020年6月リリースのRev. 22です。この緊急改良は、2020年4月からの「富岳」(旧名はポスト「京」)の早期利用による新型コロナウイルスの対策プロジェクト[18]の中、3.3千残基のスパイクタンパク質の計算を行う際に必要となりましたが、結果としてオーバーヘッドは解消されました。最近の応用計算ではPIEDAが常用されていますので、この更新は大きな価値を持つと考え、Rev. 22を最新リリースの対象としました。

HPCI拠点でのライブラリプログラムとしての登録は、高度情報科学技術研究機構(RIST)のご支援を2018年度の下期から受けており、これまでのVer. 1のRev. 10やRev. 15を整備していただいています。Rev. 22以降もこうしたご支援をいただける見込みです。


[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/

[3] http://postk6.t.u-tokyo.ac.jp/

[4] “FMOプログラムABINIT-MPの開発状況と機械学習との連携”, 望月祐志, 坂倉耕太, 秋永宜伸, 加藤幸一郎, 渡邊啓正, 沖山佳生, 中野達也, 古明地勇人,奥沢明, 福澤薫, 田中成典, J. Comp. Chem. Jpn., 16 (2017) 119.

[5] “Pair Interaction Energy Decomposition Analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222.

[6] “Fragment interaction analysis based on local MP2”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, S. Amari, T. Nakano, H. Tokiwa, S. Tanaka, K. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 118 (2007) 937.

[7] “A configuration analysis for fragment interaction”, Y. Mochizuki, K. Fukuzawa, A. Kato, S. Tanaka, K. Kitaura, T. Nakano, Chem. Phys. Lett. 410 (2005) 247.

[8] “ABINIT-MP Openシリーズの最新の開発状況について”, 望月祐志, 秋永宜伸, 坂倉耕太, 渡邊啓正, 加藤幸一郎, 渡辺尚貴, 奥脇弘次, 中野達也, 福澤薫, J. Comp. Chem. Jpn., 18 (2019) 129.

[9] “Antigen-antibody interactions of influenza virus hemagglutinin revealed by the fragment molecular orbital calculation”, A. Yoshioka, K. Takematsu, I. Kurisaki, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, T. Nakano, E. Nobusawa, K. Nakajima, S. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 130 (2011) 1197.

[10] “Density functional method including weak interactions: Dispersion coefficients based on the local response approximation”, T. Sato, H. Nakai, J. Chem. Phys. 131 (2009) 224104-1.

[11] “Higher-order correlated calculations based on fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Yamashita, T. Nakano, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, N. Taguchi, S. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 130 (2011) 515.

[12] “Fragment Molecular Orbital Calculations with Implicit Solvent Based on the Poisson-Boltzmann Equation: Implementation and DNA Study”, Y. Okiyama, T. Nakano, C. Watanabe, K. Fukuzawa, Y. Mochiuzki, S. Tanaka, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 4457.

[13] “Fragmentation at sp2 carbon in fragment molecular orbital (FMO) method”, Y. Akinaga, K. Kato, T. Nakano, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, J. Comp. Chem., 41 (2020) 1416.

[14] “Fragment Molecular Orbital Calculations with Implicit Solvent Based on the Poisson-Boltzmann Equation: II. Protein and Its Ligand-Binding System Studies”, Y. Okiyama, C. Watanabe, K. Fukuzawa, Y. Mochiuzki, T. Nakano, S. Tanaka, J. Phys. Chem. B, 123 (2019) 957.

[15] “Multilayer Formulation of the Fragment Molecular Orbital Method (FMO)”, D. G. Fedorov, T. Ishida, K. Kitaura, J. Phys. Chem. A, 109 (2005) 2638.

[16] “Large-scale FMO-MP3 calculations on the surface proteins of influenza virus, hemagglutinin (HA) and neuraminidase (NA)”, Y. Mochizuki, K. Yamashita, K. Fukuzawa, K. Takematsu, H. Watanabe, N. Taguchi, Y. Okiyama, M. Tsuboi, T. Nakano, S. Tanaka, Chem. Phys. Lett., 493 (2010) 346.

[17] “Fragment molecular orbital (FMO) calculations on DNA by a scaled third-order Moeller-Plesset perturbation (MP2.5) scheme”, H. Yamada, Y. Mochizuki, K. Fukuzawa, Y. Okiyama, and Y. Komeiji, Comp. Theor. Chem. 1101 (2017) 46.

[18] https://www.r-ccs.riken.jp/library/topics/fugaku-coronavirus.html

Open Ver. 1 Rev. 22 (2020年6月版)の主な機能

Open Ver. 1 Rev. 22では、下記の機能が利用可能となっています。

  • エネルギー

→ FMO4: HF, MP2 (CD)

→ FMO2:HF, LRD, MP2, MP3, CC/MBPT

  • エネルギー微分

→ FMO4: HF, MP2

→ FMO2: MP2構造最適化(凍結領域可), MD

  • その他機能

→ SCIFIE, CAFI, 重要データ書出し(CPF, IDF)

→ MCP, PB水和, BSSE-CP

→ PIEDA, FILM

→ sp2炭素での切断 (部分FMO3)

→ GUI(BioStation Viewer)

  • 並列化環境(PC~スパコン)

→ MPI, OpenMP/MPI混成

→ MP2エネルギーはOpenMP/MPI/MPIの3階層混成

→ 最深部はBLAS処理 (DGEMM)

 

Open Ver. 1 Rev. 22 (2020年6月版)の開発者

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(FOCUS), 沖山佳生(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 加藤幸一郎(九州大学), 渡辺尚貴(みずほ情報総研), 秋永宜伸(ヴァイナス), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 山本純一(NECソリューションイノベータ), 山下勝美(元 NECソフト), 村瀬匡(元 NECソフト), 石川岳志(鹿児島大学 学術研究院 理工学域工学系), 古明地勇人(産業技術総合研究所 バイオシステム部門), 加藤雄司(元 立教大学 理学部), 塚本貴志(みずほ情報総研), 森寛敏(中央大学 理工学部), 奥脇弘次(立教大学 理学部), 田中成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科), 加藤昭史(スコーピオンテック), 渡邉千鶴(理研 横浜), 福澤薫**(星薬科大学 薬学部) (*ABINIT-MP取り纏め責任者 / **BioStation Viewer責任者)

応用分野

ABINIT-MPのFMO計算は、開発当初から生体分子関係、特にタンパク質とリガンド(薬品分子)の複合系に対して主に用いられてきました。これは、計算で得られるフラグメント間相互作用エネルギーがアミノ酸残基間、あるいはリガンド-アミノ酸残基間の相互作用の状態を理解するのに好適なためです[1]。しかし、FMO計算は生体系に限られるだけでなく、水和凝集系や一般の高分子、あるいは固体[19-21]なども扱える潜在力を持っています。「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発活動の中では、有効相互作用パラメータをFMOで求めて高分子の粗視化シミュレーションを行うマルチスケール計算手法と応用が進められ[22-24]、さらに脂質膜[25]やタンパク質[26]にも適用されました。

ABINIT-MPの利活用が、今後こうした一般の化学工学や材料科学、あるいは応用物理関係の分野へも広がっていくことを期待していますし、そのための整備とエビデンスの集積を推進していきます。また、多構造サンプルの計算結果を統計的に解析する試み(機械学習も適宜利用)も始まっています[27,28]。


[19] “Modeling of peptide – silica interaction based on four-body corrected fragment molecular orbital (FMO4) calculations”, Y. Okiyama, T. Tsukamoto, C. Watanabe, K. Fukuzawa, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 566 (2013) 25.

[20] “Modeling of hydroxyapatite – peptide interaction based on fragment molecular orbital method”, K. Kato, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, Chem. Phys. Lett., 629 (2015) 58.

[21] “Interaction between calcite and adsorptive peptide analyzed by fragment molecular orbital method”, K. Kato, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, Jpn. J. Appl. Phys., 58 (2019) 120906.

[22] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 338.

[23] “フラグメント分子軌道(FMO)法を用いた散逸粒子動力学シミュレーションのための有効相互作用パラメータ算出の自動化フレームワーク”, 奥脇弘次, 土居英男, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn. 17 (2018) 102.

[24] “Theoretical Analyses on Water Cluster Structures in Polymer Electrolyte Membrane by Using Dissipative Particle Dynamics Simulations with Fragment Molecular Orbital Based Effective Parameters”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, S. Kawada, T. Ozawa, K. Yasuoka, RSC Adv. 8 (2018) 34582.

[25] “Dissipative particle dynamics (DPD) simulations with fragment molecular orbital (FMO) based effective parameters for 1-Palmitoyl-2-oleoyl phosphatidyl choline (POPC) membrane”, H. Doi, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, T. Ozawa, K. Yasuoka, Chem. Phys. Lett. 684 (2017) 427.

[26] “Folding simulation of small proteins by dissipative particle dynamics (DPD) with non-empirical interaction parameters based on fragment molecular orbital calculations”, K. Okuwaki, H. Doi, K. Fukuzawa, Y. Mochizuki, Appl. Phys. Express 13 (2020) 017002.

[27] “Destabilization of DNA through interstrand crosslinking by UO22+”, A. Rossberg, T. Abe, K. Okuwaki, A. Barkleit, K. Fukuzawa, T. Nakano, Y. Mochizuki, S. Tsushima, Chem. Comm. 55 (2019) 2015.

[28] “Cm3+/Eu3+ Induced Structural, Mechanistic and Functional Implications for Calmodulin”, B. Drobot, M. Schmidt, Y. Mochizuki, T. Abe, K. Okuwaki, F. Brulfert, S. Falke, S. A. Samsonov, Y. Komeiji, C. Betzel, T. Stumpf, J. Raff, S. Tsushima, Phys. Chem. Chem. Phys. 21 (2019) 21213.

Openシリーズの今後のリリース

ABINIT-MPには、主に開発の経緯的な事由から「ローカル版」が存在しています[1]。Openシリーズでは、Ver. 1 Rev. 20まで統合を図ってきましたが、励起エネルギー[29,30]や動的分極率[31]の算定については整備計画の変更もあり、残念ながら公開に至りませんでした。「フラッグシップ2020 重点課題6」は2019年度(2020年3月)で終了していますが、今後もリリースを続けていきたいと考えています。Ver. 1系の最終版の位置づけとなるRev. 25は2021年春の公開を目指しており、Rev. 22に上記の励起状態関係の機能、機械学習用データのダンプの機能、福澤准教授が参画されているAMED-BINDSプロジェクト[32]で整備中の凍結領域構造最適化[33]などが入る予定です。また、MP2エネルギー微分のベクトル化も対応予定です。

Ver. 2はVer. 1 Rev. 25をベースとしますが、P系では鹿児島大学の石川岳志教授のPAICS [34]から2電子積分の恒等分解(RI)に基づくRI-MP2/MP3モジュール(C言語で記述)が移植されて使えるようになります(ローカル版での作業は既に完了)。一方、S系では石村和也氏のSMASH [35]から提供いただいている積分モジュールやDFT機能を前面に出すことになります(LRDでの数値積分でDFTのルーチンは既に一部を利用)。また、超大規模系となる1万フラグメントまでの対応も検討しています。

OpenシリーズのHPCI拠点以外でのバイナリのオンデマンド的な提供は今後も継続し、以下のようなプラットフォームを対象(予定含む)とします(2020年6月時点)。

  • PC: Windows 10 (64 bit)
  • 小規模サーバ: Intel Xeon (IA64) & Xeon Phi (Knights Landing)
  • スーパーコンピュータ: Intel Xeon系, 富士通-ARM系, NEC-SX系 (Vector)

 


[29] “Configuration interaction singles method with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, S. Koikegami, S. Amari, K. Segawa, K. Kitaura, and T. Nakano, Chem. Phys. Lett. 406 (2005) 283.

[30] “Parallelized integral-direct CIS(D) calculations with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, K. Yamashita, T. Ishikawa, T. Nakano, S. Amari, K. Segawa, T. Murase, H. Tokiwa, M. Sakurai, Theor. Chem. Acc. 117 (2007) 541.

[31] “Dynamic polarizability calculation with fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, T. Ishikawa, K. Tanaka, H. Tokiwa, T. Nakano, S. Tanaka, Chem. Phys. Lett. 418 (2006) 418.

[32] https://www.binds.jp/

[33] “Geometry Optimization of the Active Site of a Large System with the Fragment Molecular Orbital Method”, D. G. Fedorov, Y. Alexeev, K. Kitaura, J. Phys. Chem. Lett. 2 (2011) 282.

[34] http://www.paics.net/

[35] http://smash-qc.sourceforge.net/

FMO創薬コンソーシアム

2015年度から「FMO創薬コンソーシアム」(代表:星薬科大学 福澤薫 准教授)が産官学で組織され、「京」を計算資源としてABINIT-MPによるFMO計算基づくタンパク質・リガンドの相互作用解析が進められてきました[36](2020年度はOakForest-PACS上で活動)。重要な創薬ターゲットが設定されており、当該領域の共有基盤となる知見(特にIFIEのデータセット)が蓄積されています(IFIEはデータベース公開)[37]。ABINIT-MPはOpenシリーズとして改良が続けられていきますが、このコンソーシアムは実践的な利用者コミュニティとして重要な役割を果たしていくことになります。追記となりますが、BioStation Viewerはサイト[36]からダウンロード可能です。


[36] https://fmodd.jp/

[37] “Development of an automated fragment molecular orbital (FMO) calculation protocol toward construction of quantum mechanical calculation database for large biomolecules”, C. Watanabe, H. Watanabe, Y. Okiyama, D. Takaya, K. Fukuzawa, S. Tanaka, T. Honma, CBI-J. 19 (2019) 5.

開発系コンソーシアム

ABINIT-MPのOpenシリーズの開発や保守にソースレベルでコミットしていただくための産官学の枠組みです(コンタクト先:立教大学 望月祐志)。バグ情報と対策、新規開発の機能のシェアなど意図していますが、参画される企業様が商用に独自の高速化や改良を図ることは基本的に可とする方針です。現段階では、個別にご参画をお願い・確認させていただいており、分子科学研究所の藤田貴敏准教授からは励起状態計算機能[38,39]を提供いただくことになっています(リリースはVer. 2での予定)。その他にも、周期境界条件を課したFMOベースのMDの整備なども進んでいます。


[38] “Development of the Fragment Molecular Orbital Method for Calculating Non-local Excitations in Large Molecular Systems”, T. Fujita, Y. Mochizuki, J. Phys. Chem. A 122 (2018) 3886.

[39] “Development of the fragment-based COHSEX method for large and complex molecular systems”, T. Fujita, Y. Noguchi, Phys. Rev. B 98 (2018) 205140.

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズのご利用、あるいは開発系コンソーシアムにご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければと思います(-at-を@に変換してください)。ご所望の利用形態に応じて、個別に契約書面の取り交わしをさせていただき、ご提供したいと思います。よろしくお願いいたします。

ABINIT-MP Openシリーズ(Ver. 1 Rev. 15)

※2018年2月版(Ver.1 Rev.10)に関するページはこちらです

はじめに

ABINIT-MPは、フラグメント分子軌道(FMO)計算を高速に行えるソフトウェアです[1]。専用GUIのBioStation Viewerとの連携により、入力データの作成~計算結果の解析が容易に行えます。4体フラグメント展開(FMO4)による2次摂動計算も可能です。また、部分構造最適化や分子動力学の機能もあります。FMOエネルギー計算では、小規模のサーバから超並列機の「京」まで対応しています(Flat MPIとOpenMP/MPI混成)。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

特徴

ABINIT-MPは使い易いFMOプログラムで、4体フラグメント展開までが可能です。研究室単位のLinux/Intel系サーバに標準搭載されているMPI環境で動作しますし、特別な設定も必要ありません。また、煩雑で注意深さを要するフラグメント分割を伴う入力データの作成は随伴GUIのBioStation Viewer(Windowsで動作)を使うなどすれば容易に作成出来ます。また、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)などの計算結果は膨大となりプリントからの理解はしばしば困難ですが、Viewerを使うと可視的・直観的に対象系の相互作用の様態を把握出来ます。

開発の経緯

ABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CREST「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学 田中成典教授)と立教大学SFR(担当:望月祐志)などの支援を得て、10年以上に渡って開発が進められてきました。Intel Xeon (IA64)系バイナリは、Ver.7が東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センター[2]で利用可能となっています(2019年3月時点)。

現在は、東京大学工学研究科を代表拠点とする「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)[3]の中で、Openシリーズとして機能強化・高速化とリリースが行われています(取り纏め責任者:立教大学 望月祐志)。第一版は、バイナリで公開してきましたVer. 7を元にメモリー要求の軽減などの改良を施したもので、2016年12月にまとまったVer. 1 Rev. 5です。Rev. 5は、HPCI関係では理研AICSの「京」、東京工業大学のTSUBAME、東京大学・筑波大学のJCAHPCのOakForest-PACSにライブラリ(バイナリ)として提供されました。

Ver. 1 Rev. 5をベースとして成分毎の相互作用エネルギー解析(PIEDA)[4]、局在化軌道による分散力の局所解析(FILM)[5]などの機能強化を図った版が2018年2月リリースのVer. 1 Rev. 10です。また、OakForest-PACS向けでは利用頻度の高いMP2エネルギーでOpenMP/MPI/MPIの3階層の並列化実行も可能となりました(OakForest-PACSなどのメニーコア環境への対応)。

2019年3月リリース最新のVer. 1 Rev. 15では、ペプチド結合部分のカルボニル酸素(>C=O)による相互作用で、しばしば問題になってきた「相互作用フラグメントの帰属ズレ問題」に対する解決策の一つとして、部分3体展開下でsp2混成炭素(BDA)でのフラグメント切断が可能となりました。エネルギー微分にも対応しています(論文投稿を準備中)。もう一つの新規機能は、局所応答分散(LRD)[6]によってMP2に代わって分散力による安定化エネルギーを算定出来るようになったことで(論文投稿を準備中)、計算コストとメモリー要求がMP2に比して低いので大きな系を扱うのに有利です。また、結合クラスター展開(CCSD(T)も可)と多体摂動(MBPT)のモジュール[7]が旧JST-CREST版から移植されました。その他、ポアソンボルツマン(PB)型の水和でキャビティを定義する有効原子半径の汎用性を上げています。


[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/

[3] http://postk6.t.u-tokyo.ac.jp/

[4] “Pair Interaction Energy Decomposition Analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222.

[5] “Fragment interaction analysis based on local MP2”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, S. Amari, T. Nakano, H. Tokiwa, S. Tanaka, K. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 118 (2007) 937.

[6] “Density functional method including weak interactions: Dispersion coefficients based on the local response approximation”, T. Sato, H. Nakai, J. Chem. Phys. 131 (2009) 224104-1.

[7] “Higher-order correlated calculations based on fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Yamashita, T. Nakano, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, N. Taguchi, and S. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 130 (2011) 515.

Open Ver. 1 Rev. 15 (2019年3月版)の主な機能

上記にもありますが、Open Ver. 1 Rev. 15でのRev. 10に対しての機能追加の大きなポイントは、sp2炭素による切断(ペプチド結合でのフラグメント分割が可能)とLRDによる分散力補正(PIEDAでも可能)です。

  • エネルギー

→ FMO4: HF, MP2 (CD)

→ FMO2:HF, LRD, MP2, MP3, CC/MBPT

  • エネルギー微分

→ FMO4: HF, MP2

→ FMO2: MP2構造最適化, MD

  • その他機能

→ sp2炭素での切断 (FMO3SL下)

→ SCIFIE, CAFI, 重要データ書出し

→ MCP, PB水和, BSSE-CP

→ PIEDA, FILM

→ GUI(BioStation Viewer)

  • 並列化環境(PC~スパコン)

→ MPI, OpenMP/MPI混成

→ MP2エネルギーはOpenMP/MPI/MPIの3階層混成

→ 最深部はBLAS処理 (DGEMM)

 

Open Ver. 1 Rev. 15 (2019年3月版)の開発者

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(NEC), 沖山佳生(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 秋永宜伸(ヴァイナス), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 加藤幸一郎(みずほ情報総研), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 山本純一(NECソリューションイノベータ), 山下勝美(元 NECソフト), 村瀬匡(元 NECソフト), 石川岳志(鹿児島大学 学術研究院 理工学域工学系), 古明地勇人(産業技術総合研究所 バイオシステム部門), 加藤雄司(元 立教大学 理学部), 渡辺尚貴(みずほ情報総研), 塚本貴志(みずほ情報総研), 森寛敏(中央大学 理工学部), 奥脇弘次(星薬科大学 薬学部), 田中成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科), 加藤昭史(スコーピオンテック), 渡邉千鶴(理研 横浜), 福澤薫(星薬科大学 薬学部)

(*取り纏め責任者)

応用分野

ABINIT-MPのFMO計算は、開発当初から生体分子関係、特にタンパク質とリガンド(薬品分子)の複合系に対して主に用いられてきました。これは、計算で得られるフラグメント間相互作用エネルギーがアミノ酸残基間、あるいはリガンド-アミノ酸残基間の相互作用の状態を理解するのに好適なためです[1]。しかし、FMO計算は生体系に限られるだけでなく、水和凝集系や一般の高分子、あるいは固体なども扱える潜在力を持っています。実際、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発活動の中では、有効相互作用パラメータをFMOで求めて高分子の粗視化シミュレーションを行うマルチスケール計算手法と応用が進められています[8-11]。ABINIT-MPの応用は、今後はこうした一般の化学工学や材料科学、あるいは応用物理関係の分野へも広がっていくことを期待していますし、そのための整備とエビデンスの集積を推進していきます。また、多構造サンプルの計算結果を統計的に解析する試み(機械学習も適宜利用)も始まっています[12,13]。

 


[8] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 338.

[9] “フラグメント分子軌道(FMO)法を用いた散逸粒子動力学シミュレーションのための有効相互作用パラメータ算出の自動化フレームワーク”, 奥脇弘次, 土居英男, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn. 17 (2018) 102.

[10] “Dissipative particle dynamics (DPD) simulations with fragment molecular orbital (FMO) based effective parameters for 1-Palmitoyl-2-oleoyl phosphatidyl choline (POPC) membrane”, H. Doi, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, T. Ozawa, K. Yasuoka, Chem. Phys. Lett. 684 (2017) 427.

[11] “Theoretical Analyses on Water Cluster Structures in Polymer Electrolyte Membrane by Using Dissipative Particle Dynamics Simulations with Fragment Molecular Orbital Based Effective Parameters”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, S. Kawada, T. Ozawa, K. Yasuoka, RSC Adv. 8 (2018) 34582.

[12] “FMOプログラムABINIT-MPの開発状況と機械学習との連携”, 望月祐志, 坂倉耕太, 秋永宜伸, 加藤幸一郎, 渡邊啓正, 沖山佳生, 中野達也, 古明地勇人, 奥沢明, 福澤薫, 田中成典, J. Comp. Chem. Jpn. 16 (2017) 119.

[13] “Destabilization of DNA through interstrand crosslinking by UO22+”, A. Rossberg, T. Abe, K. Okuwaki, A. Barkleit, K. Fukuzawa, T. Nakano, Y. Mochizuki, S. Tsushima, Chem. Comm. 55 (2019) 2015.

Openシリーズの今後のリリース

ABINIT-MPには、主に開発の経緯的な事由から「ローカル版」が存在しています[1]。これらでは、励起エネルギーや動的分極率の算定、さらに結合クラスター展開による高精度エネルギー計算などが利用出来ます。こうした機能に関心を持たれる方も居られますし、手持ちのマシン環境によっては再コンパイルやチューニングのためにソースを所望される場合もあります。こうした状況を改善すべく、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発の中で産官学を交えたコンソーシアム的な組織でABINIT-MPのソース共有を行い、継続的なコード開発・改良と保守を図っていく活動の中でリリースされていくのがOpenシリーズです。なお、GUI であるBioStation Viewerについては2018年の秋から星薬科大学の福澤薫准教授に更新・整備の管轄が移りました。

2019年度は、Ver. 1 Rev. 15に対して旧JST-CREST系の励起エネルギー算定機能[14]の復活を図り、Rev. 20を調製します。また、福澤准教授関係の厚労省AMED/BINDS系の成果として、部分構造最適化に好適な凍結領域制限(FD)[15]の機能、それに国立医薬品食品衛生研究所の沖山佳生氏によるポアソン-ボルツマン型溶媒和の新しいモデル(PBSA)[16]も導入される予定です。リリースは2019年の10月の予定ですが、Ver. 1の更新としてはここまでとなります。

大きな改造を伴いつつ整備を進めてきているOpen Ver.2では、石村和也氏のSMASH[17]から提供いただいている積分モジュールやDFT機能を前面に出すことになります(LRDでの数値積分でDFTのルーチンを既に一部利用)。また、また2電子積分の恒等分解(RI)のモジュール(C言語で記述)を鹿児島大学の石川岳志教授のPAICS[18]から移植(作業はほぼ完了)してRI-MP2エネルギーと微分が利用可能となります。Ver. 2のリリースは2020年の1月の見込みです。

ソースの共有とは別にOpenシリーズでも従来のバイナリでの提供も続ける予定で、以下のようなプラットフォームを対象にしています(2019年3月時点)。

  • PC: Windows (64 bit)
  • 小規模サーバ: Intel Xeon (IA64) & Xeon Phi (Knights Corner & Landing)
  • スーパーコンピュータ: 富士通系{「京」, FX-10, FX-100, OakForest-PACS}

この他、海洋研究開発機構 地球情報基盤センターのご支援により、ベクトル型スーパーコンピュータであるNECのSX-ACEにも対応作業を進めています。

HPCI拠点でのライブラリプログラムとしての登録は、高度情報科学技術研究機構(RIST)のご支援を2018年度の下期から受けており、Ver. 1 Rev. 15等についても整備を進めていく予定です。


[14] “Parallelized integral-direct CIS(D) calculations with multilayer fragment molecular orbital scheme”, Y. Mochizuki, K. Tanaka, K. Yamashita, T. Ishikawa, T. Nakano, S. Amari, K. Segawa, T. Murase, H. Tokiwa, M. Sakurai, Theor. Chem. Acc. 117 (2007) 541.

[15] “Geometry Optimization of the Active Site of a Large System with the Fragment Molecular Orbital Method”, D. G. Fedorov, Y. Alexeev, K. Kitaura, J. Phys. Chem. Lett. 2 (2011) 282.

[16] “Fragment Molecular Orbital Calculations with Implicit Solvent Based on the Poisson-Boltzmann Equation: II. Protein and Its Ligand-Binding System Studies”, Y. Okiyama, C. Watanabe, K. Fukuzawa, Y. Mochiuzki, T. Nakano, S. Tanaka, J. Phys. Chem. B, 123 (2019) 957.

[17] http://smash-qc.sourceforge.net/

[18] http://www.paics.net/

FMO創薬コンソーシアム

2015年度から「FMO創薬コンソーシアム」(代表:星薬科大学 福澤薫 准教授)が産官学で組織され、「京」を計算資源としてABINIT-MPによるFMO計算基づくタンパク質・リガンドの相互作用解析が進められています[19]。重要な創薬ターゲットが設定されており、当該領域の共有基盤となる知見(特にIFIEのデータセット)が蓄積されています(IFIEはデータベース公開)[20]。ABINIT-MPはOpenシリーズとして改良が続けられていきますが、このコンソーシアムは実践的な利用者コミュニティとして重要な役割を果たしていくことになります。


[19] http://eniac.scitec.kobe-u.ac.jp/fmodd/

[20] “Development of an automated fragment molecular orbital (FMO) calculation protocol toward construction of quantum mechanical calculation database for large biomolecules”, C. Watanabe, H. Watanabe, Y. Okiyama, D. Takaya, K. Fukuzawa, S. Tanaka, T. Honma, CBI-J. 19 (2019) 5.

開発系コンソーシアム

ABINIT-MPのOpenシリーズの開発や保守にソースレベルでコミットしていただくための産官学の枠組みです(コンタクト先:立教大学 望月祐志)。バグ情報と対策、新規開発の機能のシェアなど意図していますが、参画される企業様が商用に独自の高速化や改良を図ることは基本的に可とする方針です。現初期段階では、個別にご参画をお願い・確認させていただいて立上げようとしているところです。今後、このコンソーシアムについても情報を更新していく予定です。

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズのご利用、あるいは開発系コンソーシアムにご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければと思います(-at-を@に変換してください)。ご所望の利用形態に応じて、個別に契約書面の取り交わしをさせていただき、ご提供したいと思います。よろしくお願いいたします。

ABINIT-MP Openシリーズ(Ver. 1 Rev. 10)

※2016年12月版(Ver.1 Rev.5)に関するページはこちらです

はじめに

ABINIT-MPは、フラグメント分子軌道(FMO)計算を高速に行えるソフトウェアです[1]。専用GUIのBioStation Viewerとの連携により、入力データの作成~計算結果の解析が容易に行えます。4体フラグメント展開(FMO4)による2次摂動計算も可能です。また、部分構造最適化や分子動力学の機能もあります。FMOエネルギー計算では、小規模のサーバから超並列機の「京」まで対応しています(Flat MPIとOpenMP/MPI混成)。


[1]“Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

特徴

ABINIT-MPは使い易いFMOプログラムで、4体フラグメント展開までが可能です。研究室単位のLinux/Intel系サーバに標準搭載されているMPI環境で動作しますし、特別な設定も必要ありません。また、煩雑で注意深さを要するフラグメント分割を伴う入力データの作成は随伴GUIのBioStation Viewer(Windowsで動作)を使うなどすれば容易に作成出来ます。また、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)などの計算結果は膨大となりプリントからの理解はしばしば困難ですが、Viewerを使うと可視的・直観的に対象系の相互作用の様態を把握出来ます。

開発の経緯

ABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CREST「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学 田中成典教授)と立教大学SFR(担当:望月祐志)などの支援を得て、10年以上に渡って開発が進められてきました。Intel Xeon (IA64)系バイナリは、Ver.7が東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センター[2]で利用可能となっています(2018年1月時点)。

現在は、東京大学工学研究科を代表拠点とする「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)[3]の中で、Openシリーズとして機能強化・高速化とリリースが行われています(取り纏め責任者:立教大学 望月祐志)。第一版は、バイナリで公開してきましたVer. 7を元にメモリー要求の軽減などの改良を施し、2016年12月にまとまった版がVer. 1 Rev. 5です。Rev. 5は、HPCI関係では理研AICSの「京」、東京工業大学のTSUBAME、東京大学・筑波大学のJCAHPCのOakForest-PACSにライブラリ(バイナリ)として提供されました。

Ver. 1 Rev. 5をベースとして成分毎の相互作用エネルギー解析(PIEDA)[4]、局在化軌道による分散力の局所解析(FILM)[5]などの機能強化を図った最新版が2018年2月リリースのVer. 1 Rev. 10になります。また、OakForest-PACS向けでは利用頻度の高いMP2エネルギーでOpenMP/MPI/MPIの3階層の並列化実行も可能となりました。


[2] http://www.ciss.iis.u-tokyo.ac.jp/

[3] http://postk6.t.u-tokyo.ac.jp/

[4]  “Pair interaction energy decomposition analysis”, D. G. Fedorov, K. Kitaura, J. Comp. Chem. 28 (2007) 222-237.

[5] “Fragment interaction analysis based on local MP2”, T. Ishikawa, Y. Mochizuki, S. Amari, T. Nakano, H. Tokiwa, S. Tanaka, K. Tanaka, Theor. Chem. Acc. 118 (2007) 937-945.

Open Ver. 1 Rev. 10 (2018年2月版)の主な機能

Open Ver. 1 Rev. 10はこれまでバイナリで公開してきましたVer. 7に準拠していますが、モデル内殻ポテンシャル(MCP)が追加され、メモリ管理の改良によって動作の安定性が向上しています。

  • エネルギー

→ FMO4: HF, MP2 (CD)

→ FMO2: HF, MP2, MP3

  • エネルギー微分

→ FMO4: HF, MP2

→ FMO2: MP2構造最適化, MD

  • その他機能

→ SCIFIE, CAFI, 重要データ書出し

→ MCP, PB水和, BSSE-CP

→ PIEDA, FILM

→ GUI(BioStation Viewer)

  • 並列化環境(PC~スパコン)

→ MPI, OpenMP/MPI混成

→ MP2エネルギーはOpenMP/MPI/MPIの3階層混成(OakForest-PACS向け)

→ 最深部はBLAS処理

 

Open Ver. 1 Rev. 10 (2018年2月版)の開発者(所属)

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(NEC), 沖山佳生(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 秋永宜伸(ヴァイナス), 渡邊啓正(HPCシステムズ), 加藤幸一郎(みずほ情報総研), 佐藤伸哉(NECソリューションイノベータ), 山本純一(NECソリューションイノベータ),山下勝美(元 NECソフト), 村瀬匡(元 NECソフト), 石川岳志(長崎大学 医歯薬学総合研究科), 古明地勇人(産業技術総合研究所 バイオシステム部門), 加藤雄司(元 立教大学 理学部), 渡辺尚貴(みずほ情報総研), 塚本貴志(みずほ情報総研), 森寛敏(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科), 田中成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科), 加藤昭史(元 みずほ情報総研), 福澤薫(星薬科大学 薬学部), 渡邉千鶴(理研 横浜)

(*取り纏め責任者)

応用分野

ABINIT-MPのFMO計算は、開発当初から生体分子関係、特にタンパク質とリガンド(薬品分子)の複合系に対して主に用いられてきました。これは、計算で得られるフラグメント間相互作用エネルギーがアミノ酸残基間、あるいはリガンド-アミノ酸残基間の相互作用の状態を理解するのに好適なためです[1]。しかし、FMO計算は生体系に限られるだけでなく、水和凝集系や一般の高分子、あるいは固体なども扱える潜在力を持っています。実際、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発活動の中では、有効相互作用パラメータをFMOで求めて高分子の粗視化シミュレーションを行うマルチスケール計算手法と応用が進められています[6,7]。ABINIT-MPの応用は、今後はこうした一般の化学工学や材料科学、あるいは応用物理関係の分野へも広がっていくことを期待していますし、そのための整備とエビデンスの集積を推進していきます。また、統計的な多構造サンプルの計算結果を機械学習によって自動的に解析する試みも始まっています。


[6] “Dissipative particle dynamics (DPD) simulations with fragment molecular orbital (FMO) based effective parameters for 1-Palmitoyl-2-oleoyl phosphatidyl choline (POPC) membrane”, H. Doi, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, T. Ozawa, K. Yasuoka, Chem. Phys. Lett. 684 (2017) 427-432.

[7] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki*, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B 122 (2018) 338-347.

Openシリーズの今後のリリース

ABINIT-MPには、主に開発の経緯的な事由から「ローカル版」が存在しています[1]。これらでは、励起エネルギーや動的分極率の算定、さらに結合クラスター展開による高精度エネルギー計算などが利用出来ます。こうした機能に関心を持たれる方も居られますし、手持ちのマシン環境によっては再コンパイルやチューニングのためにソースを所望される場合もあります。こうした状況を改善すべく、「フラッグシップ2020 重点課題6」の研究開発の中で産官学を交えたコンソーシアム的な組織でABINIT-MPのソース共有を行い、継続的なコード開発・改良と保守を図っていく活動の中でリリースされていくのがOpenシリーズです。BioStation Viewerについても、随時Openシリーズへの対応を図っていきます。

現在、Ver. 1 Rev. 10を元にフラグメント分割箇所の自由度を向上させるなどの機能的改良を進めています。この版は、Rev. 15として2018年後半にリリースする予定です。

大きな改造を伴いつつ整備を進めているOpen Ver.2では、密度汎関数(DFT)のモジュールなどを分子科学研究所の石村和也研究員のSMASH[8]から、また2電子積分の恒等分解(RI)のモジュール(C言語で記述)を長崎大学の石川岳志准教授のPAICS[9]から移植しています。Ver. 2のリリースは2019年の上期を見込んでいます。

ソースの共有とは別にOpenシリーズでも従来のバイナリでの提供も続ける予定で、以下のようなプラットフォームを対象にしています(2018年2月時点)。

  • PC: Wndows 7 (64 bit)
  • 小規模サーバ: Intel Xeon (IA64) & Xeon Phi (Knights Corner & Landing)
  • スーパーコンピュータ: 富士通系{「京」, FX-10, FX-100, OakForest-PACS}

なお、ベクトル型スーパーコンピュータであるNECのSX-ACEにも対応作業を進めています(Ver. 1 Rev. 10系)。

「京」でのABINIT-MPの多数のジョブの自動実行に関しては、九州大学の小野謙二教授・理研AICSで開発しているWHEEL[10]を使ったインターフェースを整備中です


[8] http://smash-qc.sourceforge.net/

[9] http://www.paics.net/

[10] https://github.com/RIIT-KyushuUniv/WHEEL

FMO創薬コンソーシアム

2015年度から「FMO創薬コンソーシアム」(代表:星薬科大学 福澤薫 准教授)が産官学で組織され、「京」を計算資源としてABINIT-MPによるFMO計算基づくタンパク質・リガンドの相互作用解析が進められています[11]。重要な創薬ターゲットが設定されており、当該領域の共有基盤となる知見(特にIFIEのデータセット)の蓄積が期待されます。ABINIT-MPはOpenシリーズとして今後も改良が続けられていきますが、このコンソーシアムは実践的な利用者コミュニティとして重要な役割を果たしていくことになります。


[11] http://eniac.scitec.kobe-u.ac.jp/fmodd/

開発系コンソーシアム

ABINIR-MPのOpenシリーズの開発や保守にソースレベルでコミットしていただくための産官学の枠組みです(コンタクト先:立教大学 望月祐志)。バグ情報と対策、新規開発の機能のシェアなど意図していますが、参画される企業様が商用に独自の高速化や改良を図ることは基本的に可とする方針です。現初期段階では、個別にご参画をお願い・確認させていただいて立上げようとしているところです。今後、このコンソーシアムについても情報を更新していく予定です。

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズのご利用、あるいは開発系コンソーシアムにご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければと思います(-at-を@に変換してください)。ご所望の利用形態に応じて、個別に契約書面の取り交わしをさせていただき、ご提供したいと思います。よろしくお願いいたします。

フラグメント分子軌道計算に基づく粗視化シミュレーション用の有効相互作用(χ)パラメータのワークフローシステムFCEWS (FMO-based Chi parameter Evaluation Workflow System)

はじめに

近年、材料科学や創薬科学の分野においてナノ~メゾ(数~数百nm )の領域をつなぐマルチスケールシミュレーションの重要性が増しています。通常、メゾ構造の予測には散逸粒子動力学(DPD)等の粗視化シミュレーションが用いられます。これまで、粗視化された粒子間の有効相互作用を表現するχパラメータの設定は、実験データを元にフィットするか、古典的な分子力学(MM)に基づいて算定[1]されることがほとんどでした。しかし、実験値やMMパラメータが存在しない系を扱うことは難しく、また古典的な記述では信頼性が十分でないケースもありました。

上記の問題に対する一つの解決策として開発されたのが、FCEWS (FMO-based Chi parameter Evaluation Workflow System)[2]です。FCEWSプログラムでは、χパラメータを、フラグメント分子軌道(FMO)計算の結果を元に半自動的に算定することが出来ます。FMO計算は、通常のMO計算と同じく、非経験的な量子化学的フレームワークを用いていますので、MMを使用した場合と比べて計算対象の制限を受けにくく、幅広い計算対象に対してχパラメータを統一的に算定することが可能です[3]。なお、FCEWSでのFMO計算にはABINIT-MP[4]を使用します。

 


[1] “Application of Molecular Simulation To Derive Phase Diagrams of Binary Mixtures”, C. F. Fan, B. D. Olafson, M. Blanco, S.L. Hsu, Macromolecules 25 (1992) 3667-3676.

[2] “FMO計算に基づくχパラメータ算定システム FCEWS”, 土居英男, 奥脇弘次, 望月祐志, J. Comp. Chem. Jpn., in press.

[3] “Fragment Molecular Orbital-based Parameterization Procedure for Mesoscopic Structure Prediction of Polymeric Materials”, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, H. Doi, T. Ozawa, J. Phys. Chem. B, 122 (2018) 338-347.

[4] “Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.

特徴

FCEWSは、ユーザーの負担を極力少なくするように設計されています。計算対象分子の構造を用意すれば、ABINIT-MPの入力ファイルの自動生成、計算結果の回収、χパラメータの算定を1コマンドで実行可能です。ABINIT-MPの方でポアソン・ボルツマン(PB)型の連続誘電体モデルのオプション[5]を設定すれば溶媒効果を考慮することも可能で、脂質膜のシミュレーション[6,7]などに好適です。

 


[5] “Incorporation of solvation effects into the fragment molecular orbital calculations with the Poisson–Boltzmann equation”, H. Watanabe, Y. Okiyama, T. Nakano, S. Tanaka, Chem. Phys. Lett. 500 (2010) 116-119.

[6] “Dissipative particle dynamics (DPD) simulations with fragment molecular orbital (FMO) based effective parameters for 1-Palmitoyl-2-oleoyl phosphatidyl choline (POPC) membrane”, H. Doi, K. Okuwaki, Y. Mochizuki, T. Ozawa, and K. Yasuoka, Chem. Phys. Lett., 684 (2017) 427-432.

[7] “散逸粒子動力学における界面付近の水の取扱い”, 土居英男,奥脇弘次,望月祐志,小沢拓, J. Comp. Chem. Jpn., 16 (2017) 28-31.

開発の経緯

FCEWSの方法論的な整備は、(株)JSOL(担当:小沢拓氏)と望月研究室とのコラボレーションとして2014年春に始まりました。2015年度からは、文部科学省「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)プロジェクト[8]の中で研究開発が進められてきており、実応用として燃料電池の電解質膜のFMO-DPD連携シミュレーションなどで活用されています。また、前出の脂質膜関係[6,7]の他に、省燃費タイヤのゴム/シリカ複合素材[9]にも適用されています。

FCEWSの中でも用いられるABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CREST「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学 田中成典教授)と立教大学SFR(担当:望月祐志)などの支援を得て、10年以上に渡って開発が進められてきました。現在は、FCEWSと同じく「フラッグシップ2020 重点課題6」の下で開発整備が続けられています。なお、ABINIT-MPの入手・利用については[10]をご参照下さい。

 


[8] http://postk6.t.u-tokyo.ac.jp/

[9] “タイヤゴム素材に関する計算化学的研究”, 石川雄太郎, 奥脇弘次, 土居英男, 望月祐志, 佐藤弘一, 日本ゴム協会2017年年次大会, B-3発表, 名古屋, 2017/5/18.

[10] http://www.cenav.org/abinitmpopen1/

FCEWS Ver. 1 Rev. 2 (2018年2月版)の主な機能

基本的な機能は文献[2]に記してあるものになります。

  • ABINIT-MPを用いたFMO計算のための入力ファイル自動生成機能
  • 計算結果の自動回収機能
  • χパラメータの算定機能

2018年2月現在もFCEWSの手法の改良・拡張は続いており、今後はより汎用性を高め、タンパク質などへも利用を広げていく予定です。

FCEWS Ver. 1 Rev. 2の開発者

奥脇弘次(立教大学 理学部)、土居英男(立教大学 理学部 → 産業技術総合研究所)、望月祐志*(立教大学 理学部) (*取り纏め責任者)

コンタクト

FCEWSのご利用にご関心のある方は、立教大学の望月祐志(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)にメールにてご連絡いただければと思います(-at-を@に変換してください)。個別に契約書面の取り交わしをさせていただき、ご提供したいと思います。よろしくお願いいたします。


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