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SC17報告 ースパコン業界におけるVR/MR最前線ー

2017年11月12日〜17日、スーパーコンピューター関連のトップカンファレンス、SC17が米国デンバー市で開催されました。ここでは、そのエキシビション会場で展示されていたVR/MR系の展示物についていくつか紹介したいと思います。

スーパーコンピューターという言葉は日常生活から縁遠い響きに感じますが、エキシビジョン会場で見かけるメーカー名などは皆さんご存知のものも多いはずです。特にVR/MR系のソフトウェア・ハードウェアはゲーム業界での活用事例が先行していることもあり、お馴染みのメーカー揃いとなっています。

ゲームの世界では高精細なグラフィック表示のために、高性能なCPUとGPU、周辺機器を必要とします。そのためハイエンドなPCは「ゲーミングPC」と銘打って売られることも多いようです。つまり、もともとゲーム業界と、HPC(High Performance Computing)業界はとても近い関係にあるわけですが、そこに昨今のVR/MRブームが組み合わされた結果、HPC業界側で何が起きているのか、をご覧いただければと思います。

ベンダー系出展

DELL

DELLのブースでは、BE A SUPEHERO(スーパーヒーローになろう)と銘打ったVR展示が行われていました。内容はスパイダーマンになって敵と戦うゲームのようです。ヘッドセットはOculusを使っていました。
ノートPCからスパコン用途のラックマウントサーバまで、全方位で製品を揃えるDELLですが、ゲーミングPCについては AlienWareというメーカーを2006年に買収し、そのブランド名を残して販売しています。DELLのブースで見つけたこのVR展示も、壁にそのブランド名が見えます。このデモでも使われているのかもしれません(未確認です)
なお、DELLは今年になってWindows対応のMRヘッドセットを発表していますが、ここでの展示はありませんでした。

Redhat

Linuxディストリビューションとして有名なredhatは、自社製品が複数のアーキテクチャで動作することを説明するコンテンツをVRで体験する展示を行っていました。コンテンツのベースはいわゆるライフゲーム(Wikipediaによる説明)で、そこに自社製品の説明を組み合わせているようです。
使っているVRデバイスはHTC Viveでした。

youtubeでも同じコンテンツの冒頭部分を見ることができます。

 

SUSE

redhat同様にLinuxディストリビューションを提供するSUSEのブースでは、ライトセーバーを振り回すスターウォーズのVRゲームが体験できました。参加者の得点ランキングボードまであって盛り上がっており、自然と人だかりが出来ます。
自社製品との関係は今ひとつ分かりませんでしたが、VRに限らず所謂客寄せイベントはメーカー系ブースでは頻繁に行われており、参加するとお土産がもらえたりします。ここではライトセーバーのオモチャがもらえたようです。

NVIDIA

NVIDIAのGPUはグラフィックス用途のみならず数値計算用途のプロセッサとして、HPCの世界ではメジャーな計算資源として認知されています。ご存知の通りゲームやVRの世界でもNVIDIAのGPU製品は欠かせないものであり、どんな展示があるのか、と期待していましたが、VRの展示は見当たりませんでした。(NVIDIAは巨大なブースで出展しており、見逃した可能性はあります)
写真は構造・流体ソルバのANSYS Discovery Liveによる車両の空力シミュレーション結果を、同社の最新のGPUを用いてリアルタイムかつインタラクティブに視点変更可能に動画として見せるデモです。NVIDIAはVRなどよりもこうした実用的なCAEツールのデモ展示がSCではふさわしいと判断したと思われます。

海外研究機関の出展

 米国エネルギー省(DOE)

米国エネルギー省のブースには、米国内の複数の研究機関が共同で出展しているようでした。駆け足で見て回った途中のこの展示の詳細は分からないのですが、大規模データ可視化を液晶シャッター方式のメガネをかけて立体視するデモのようです。

日本からの出展

産業技術総合研究所(AIST)

産総研では3枚の縦置き液晶ディスプレイで構成されたタイルドディスプレイが目を引きますが、表示しているのは写真中ほどに写る人物がVRヘッドセット(HTC Viveを使用)で見ているものです。表示データは日本全国の降雨量、河川水量など、17000以上のセンサーからの情報を立体棒グラフとして見せています。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)

JAMSTECのVR展示は、VFIVEというアプリケーションの体験ができたようです。もともとCAVE(Wikipediaによる説明)向けのデータ可視化ソフトウェアだったものをHMD向けに移植したとこのこと。ヘッドセットをかぶると操作メニューが実際の視界の中に浮かんで見えるようですので、MR的な使い方になるでしょうか。
VFIVEの説明ページ: https://www.jamstec.go.jp/esc/research/Perception/vfive.ja.html

東京大学生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター

計算工学ナビを運営している東大生研 革新的シミュレーション研究センターも、SC17に出展しました。当センターで開発する解析アプリケーションによる大規模計算結果の可視化を、DOEのような液晶シャッター方式のメガネを使って立体視するデモでしたが、ちょっと変わっているのは、データを表示しているディスプレイの周囲にセンサーが着いており、これが液晶シャッターメガネの位置を把握し、メガネ位置、つまり観察者の視点に応じて表示物の向きが変えることができる点です。通常の可視化ソフトでインタラクティブに視点変更するときは、マウスで表示対象物をドラッグするなどして物体側を動かしますが、この装置を使うと観察者自身が動くので、より没入感を感じることが出来ます。

まとめ

以上、SC17で展示されていたVR・MR関係のデモを駆け足で見て回りました。SCは大変大きなエキシビションなため、全ての展示物を見て回れたわけではありませんが、他の参加者の感想なども総合すると、VR・MR関係の展示は昨年より格段に増えているようです。一方、その使われ方については、HPCによる計算結果に対して有効な可視化手法としての提示はまだまだ少ないという印象でした。HMDの性能向上も日進月歩ですので、来年のSC18ではより高度な展開が期待されます。

おまけ

VR・MRとは関係ありませんが、計算工学ナビとしては見逃せない展示がありましたのでご紹介します。

当サイトの人気コンテンツ、「RaspberryPiクラスタ製作記」でも示した通り、シングルボードコンピュータRaspberryPiをクラスタ化して大きな計算能力を得ようという試みは世界中で行われていますが、ついにそれをパッケージ化した製品が登場しました。このRasPi3Bを750台詰め込んだ製品は、ロスアラモス国立研究所とニューメキシコ州の3大学の共同研究で利用されるそうです。
製品説明へのリンク: http://www.bitscope.com/blog/FM/?p=GF13L