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ものづくりにHPCを活用するための ツールとケーススタディー

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HPC/PF紹介 第1回「HPC/PFとは?」

東京大学生産技術研究所 革新的シミュレーション研究センター 特任研究員 川鍋友宏

はじめに

これまで国家プロジェクトとして開発されたソフトウェアは多数存在しますが、一部を除きプロジェクト期間終了とともにメンテナンスも終了あるいは先細りとなり、そうしたソフトウェアはいずれ使われなくなることが多々ありました。

しかし近年、企業にも大規模クラスタ計算機が導入されるようになったことで、効率的な並列計算性能を持つ国プロアプリに注目が集まっています。

スーパーコンピュータ「京」を始めとするHPCI計算機資源において、その超並列計算性能を検証・実証してきたHPCI戦略プログラム分野4「次世代ものづくり」の各種解析アプリケーションは、産業界で有効利用されることを前提に開発されたものです。それぞれのアプリケーションは、共同研究などにより産業界で利用され成果を挙げていますが、産業界に浸透しているとまでは言えません。

HPC/PF(HPC次世代ものづくりプラットフォーム)は産業界における国プロアプリの潜在需要を開拓し、利用者層の拡大、普及促進を図ることを目的に開発されたシステムです。
本稿では今後数回に分けてHPC/PFの主な機能と使い方を紹介します。

HPC/PFのコンセプト

HPC/PFとは、High Performance Computing PlatFormの略です。「次世代ものづくり」では国プロ等による研究成果の中から、広い意味での「ものづくり」に利用が可能な解析アプリケーション・プログラムを選別し、ソフトウェアラインナップとして整備することを主要施策の一つにしています。具体的には、産業界のエンジニアが抱える設計の諸問題の解決を支援するための将来を見据えた先端的機能を有するシミュレーションコードと、プリ・ポストなどの周辺技術を含めた統合的な解析システムの整備、さらにはユーザの効果的・効率的利用に資するソフトウェア利用ノウハウ等を含んだデータベースシステムの整備であり、これらをまとめてHPC/PFとして実装します。

図1 HPC/PFのコンセプト

図1 HPC/PFのコンセプト

HPC/PFシステムの概要

上記コンセプトに基づき、具体的には下図に示すようなシステムを開発しています。

図2 HPC/PFシステム概要

図2 HPC/PFシステム概要

HPC/PFは大きく分けると「知識データベース」「ポータルGUI」「解析実行環境」の3つサブシステムから構成されています。

知識DB 各解析アプリケーションによる解析事例や、ソフトウェア利用ノウハウを収録したDB。本サイト上のKnowledge Baseとして実装・公開されている
ポータルGUI ユーザPC上のHPC/PFフロントエンド。解析事例閲覧や、解析ワークフローの実行、プリ・ポスト処理を行うGUIアプリケーション
解析実行環境 スパコンやPCクラスタなど解析処理が実行される計算機資源で動作。小規模解析であればユーザPC上でも実行可能

 

これらサブシステムを連携させることで、解析アプリの初学者であっても、スパコン等を利用したシミュレーションを手軽に実行でき、かつ実設計業務でも有用な環境を提供します。

使い方

例えば解析アプリの初学者であれば、自分のPC上で動作する「ポータルGUI」から知識DBに接続し、興味あるアプリの基礎的な解析事例を閲覧してそのアプリでどの様な解析が可能なのかを学習できます。さらにその解析事例に添付された再現計算用データセット一式(プロジェクト・アーカイブ)を自分のPCにダウンロードして、ポータルGUIの解析ワークフロー実行機能を利用することで、スパコンやPCクラスタを利用した解析シミュレーションをGUI操作だけで実行できます。

解析に必要なファイルのスパコンへの転送、スパコンシステムに依存したジョブスクリプトの生成・実行、結果ファイルの回収など、本来解析業務の本質と関係ない部分で手間の掛かる作業は全てHPC/PFシステムが自動実行するので、ユーザは解析アプリの学習に専念することができます。(接続先のスパコン・PCクラスタには予めユーザアカウント作成と、解析アプリのインストールが必要です)

図4 事例ダウンロードによる解析追体験

図3 事例ダウンロードによる解析追体験

また、実設計向けにはGUIパラメータエディタによるパラメータサーベイの設定、サーベイ数に応じて複数ジョブが自動実行される機能が現時点で提供されており、将来的には遺伝的アルゴリズムによる進化計算を用いた多目的関数に対応した最適化設計機能の提供を予定しています。

図5 パラメータスタディ自動実行の仕組み

図4 パラメータスタディ自動実行の仕組み

図2,図3において 知識DBはインターネット上で公開されたWebシステムと位置づけていますが、HPC/PFは後述する通りオープンソース・ソフトウェアですので、例えば企業内のクローズドなLAN内に知識DBを構築することも可能です。そのため、国プロアプリ利用のノウハウを公開された知識DBから入手・学習し、HPC/PFを利用した解析によって得られた知見は、企業内の知識DBに登録・蓄積して社内で利活用する。といった利用シナリオも考えられます。

図5 企業内LANでのHPC/PF活用例

ソフトウェアの公開

HPC/PFは現在開発途中ですが、githubでの公開を予定しています。現状でも以下のURLより開発版のcloneが可能です。

https://github.com/avr-aics-riken

ライセンス

HPC/PFは修正BSDライセンスで配布されるオープンソース・ソフトウェアです。

まとめ

今回は初回ということで、HPC/PFの開発理由や、システム構造、想定される使い方について簡単に説明しました。
次回はHPC/PFを構成する機能コンポーネントについて、少し詳しく説明します。