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ABINIT-MP Openシリーズ

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2016年12月版に関する新しいページがあります

はじめに

logoABINIT-MPは、フラグメント分子軌道(FMO)計算を高速に行えるソフトウェアです[1]。専用GUIのBioStation Viewerとの連携により、入力データの作成~計算結果の解析が容易に行えます。4体フラグメント展開(FMO4)による2次摂動計算も可能です。また、部分構造最適化や分子動力学の機能もあります。FMOエネルギー計算では、小規模のサーバから超並列機の「京」まで対応しています(Flat MPIとOpenMP/MPI混成)。
 

特徴

ABINIT-MPは使いやすいFMOプログラムで、4体フラグメント展開までが可能です。研究室単位のLinux/Intel系サーバに標準搭載されているMPI環境で動作しますし、特別な設定も必要ありません。また、煩雑で注意深さを要するフラグメント分割を伴う入力データの作成は、随伴GUIのBioStation Viewer(Windowsで動作)を使うなどすれば容易に作成できます。また、フラグメント間相互作用エネルギー(IFIE)などの計算結果は膨大となりプリントからの理解はしばしば困難ですが、Viewerを使うと可視的・直観的に対象系の相互作用の様態を把握できます。

主な機能

・エネルギー
→ FMO4: HF, MP2 (CD)
→ FMO2: HF~CCSD(T)
→ FMO2: CIS, CIS(D)系
・エネルギー微分
→ FMO4: HF, MP2
→ FMO2: MP2構造最適化, MD

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・その他機能
→ SCIFIE, PB, CAFI, FILM, α(ω)
→ GUI(BioStation Viewer)
→ MPI, OpenMP/MPI混成
→ 最深部はBLAS処理

■BioStationViewer / GUI
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開発の経緯

ABINIT-MPプログラムは、東京大学生産技術研究所を拠点とする「戦略的基盤ソフトウェアの開発」、「革新的シミュレーションソフトウェアの開発」、「HPCI戦略分野4 次世代ものづくり」の一連のプロジェクト(代表:東京大学 加藤千幸教授)、さらにJST-CREST「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(代表:神戸大学田中成典教授)、科学研究費補助金:特定領域研究「実在系の分子理論」(代表:京都大学 榊茂好教授)、立教大学SFR(担当:立教大学望月祐志教授)などの支援を得て、10年以上に渡って開発が進められてきました。Intel IA64系バイナリは、Ver.7が東京大学生産技術研究所の革新的シミュレーション研究センターで、また「京」向けのVer.6+が理化学研究所計算科学研究機構で利用可能となっています。

今後は、東京大学工学研究科を代表拠点とする「フラッグシップ2020 重点課題6」(代表:東京大学 吉村忍教授)の中でものづくり系への応用を指向して改良とリリースが行われていく予定です。後述のように版管理の枠組みも変わってOpenシリーズに移行します。

ABINIT-MPの開発とその先導的な実証応用には多数の機関から多くの方が関わってきましたが、物理的な活動の場所としては東京大学生産技術研究所の一角に置かせていただいてきました。こうした経緯もあり、ABINIT-MPの新しいポータルHPを「計算工学ナビ」の中に設けていただくことになりました。

開発者(所属)

望月祐志*(立教大学 理学部), 中野達也(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部), 坂倉耕太(NEC), 山本純一(NEC), 沖山佳生(元 東京大学 生産技術研究所), 山下勝美(元 NECソフト), 村瀬匡(元 NECソフト), 石川岳志(長崎大学 医歯薬学総合研究科), 古明地勇人(産業技術総合研究所 バイオシステム部門), 加藤雄司(元 立教大学 理学部), 渡辺尚貴(みずほ情報総研), 塚本貴志(みずほ情報総研), 森寛敏(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科), 田中成典(神戸大学大学院 システム情報学研究科), 加藤昭史(みずほ情報総研), 福澤薫(日本大学 松戸歯学部), 渡邉千鶴(元 東京大学 生産技術研究所)
(*取り纏め責任者)

応用分野

ABINIT-MPのFMO計算は、開発当初から生体分子関係、特にタンパク質とリガンド(薬品分子)の複合系に対して主に用いられてきました。これは、計算で得られるフラグメント間相互作用エネルギーがアミノ酸残基間、あるいはリガンド-アミノ酸残基間の相互作用の状態を理解するのに好適なためです[1,2]

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しかし、FMO計算は生体系に限られるだけでなく、水和凝集系や一般の高分子、あるいは固体なども扱える潜在力を持っています。ABINIT-MPの応用は、今後はこうした一般の化学工学や材料科学、あるいは応用物理関係の分野へも広がっていくことを期待していますし、そのための整備とエビデンスの集積も進めています。

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FMO創薬コンソーシアム

2014年11月から「FMO創薬コンソーシアム」(代表:日本大学 福澤薫助教)が産官学で組織され、「京」を計算資源としてABINIT-MPによるFMO計算に基づくタンパク質・リガンドの相互作用解析が進められています。重要な創薬ターゲットが設定されており、当該領域の共有基盤となる知見(特にIFIEのデータセット)の蓄積が期待されます。ABINIT-MPは改良が続けられていきますが、このコンソーシアムは実践的な利用者コミュニティとして今後も重要な役割を果たしていくことになります。

Openシリーズと今後のリリース

ABINIT-MPには、現在からバイナリで利用可能なVer.7(東京大学生産技術研究所からのインテル向け)とVer.6+(理化学研究所の「京」向け)とは別に、主に開発経緯的な事由から「ローカル版」が存在しています[1]。そちらでは、励起エネルギーや動的分極率の算定、さらに結合クラスター展開による高精度エネルギー計算などが利用できます。こうした機能に関心を持たれる方も居られますし、手持ちのマシン環境によっては再コンパイルやチューニングのためにソースを所望される場合もあります。こうした状況を改善すべく、産官学を交えたコンソーシアム的な組織でABINIT-MPのソース共有を行い、継続的なコード開発・改良と保守を図っていく活動の中でリリースされていくのがOpenシリーズになります。

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Ver.7に準拠し、モデル内殻ポテンシャル(MCP)機能を追加した最初のOpen Ver.1については準備が整いました(2016年3月31日)。また、「フラッグシップ2020 重点課題6」のプロジェクト活動の中で2016年度に整備するOpen Ver.2では、密度汎関数(DFT)のモジュールなどを分子科学研究所の石村和也研究員のSMASHから、また2電子積分の恒等分解(RI)のモジュール(C言語で記述)を長崎大学の石川岳志准教授のPAICSから移植する他、「ローカル版」のいくつかの機能を含める予定です。また、ホットスポットの洗い直しやメモリ割り当ての見直しなども行い、パフォーマンスの総合的な向上も図ります。Open Ver.3以降も機能充実を順次進めていきます。また、BioStation Viewerについても随時Openシリーズへの対応を図ります。

ソースの共有とは別にOpenシリーズでも従来のバイナリでの提供も続けるつもりですが、これまでのIntel IA64系と富士通系だけでなく、NECのベクトル系(SX-ACE)、さらにパソコン用にWindows 64ビット系を提供しようと考えています。準備ができましたら、このページで順次ご案内します。

開発系コンソーシアム

ABINIT-MPのOpenシリーズの開発や保守にソースレベルでコミットしていただくための産官学枠組みです。バグ情報と対策、新規開発の機能のシェアなど意図していますが、参画される企業様が商用に独自の高速化や改良を図ることは基本的に可とする方針です。現初期段階では、個別にご参画をお願い・確認させていただいて立上げようとしているところですが、規模的には産官学で20拠点程になります。今後、このコンソーシアムについても情報を更新していく予定です。

コンタクト

ABINIT-MPのOpenシリーズ、あるいは開発系コンソーシアムにご関心のある方は、立教大学の望月(fullmoon -at- rikkyo.ac.jp)、中村(mnakamura -at- rikkyo.ac.jp)にメールでご連絡いただければと思います。

[1] “Electron-correlated fragment-molecular-orbital calculations for biomolecular and nano systems”, S. Tanaka, Y. Mochizuki, Y. Komeiji, Y. Okiyama, K. Fukuzawa, Phys. Chem. Chem. Phys. 16 (2014) 10310-10344.
[2] “The Fragment Molecular Orbital Method: Practical Applications to Large Molecular Systems”, edited by D. G. Fedorov, K. Kitaura, CRC Press, Boca Raton, Florida, 2009 ISBN 978-1-4200-7848-0.